米金利は上昇加速へ
2022年、米国はいよいよ利上げに踏み切ると見られます。米金利先物市場の値動きから米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策を予測する「CME Fed Watch」では、3月開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での0.25%利上げが94.4%、0.5%利上げが5.6%で、100%の確率で利上げを予測しています。
つまり、3月に利上げすることはサプライズではない、ということになります。逆にいうと3月に利上げすることが織り込まれており、米ドル/円相場は116円からは上がらなくなっているということでもあります。
金利が高くなっていく通貨にマネーが流れ込むことを想定して、2022年のアナリストらの米ドル/円予想は120円方向の米ドル高円安に傾いています。
米国の長期債(10年債)利回りは1月19日に1.9%台にまで上昇し、コロナ禍以前の水準に回帰、FRBの政策金利であるFF金利の影響を最も受けやすいとされる短期債(2年債)は1月17日に1%大台に乗せるところまで勢いよく上昇しています。
この短期金利の上昇につれて米ドル/円相場は年初1月4日に116.35円の高値を示現したのですが、以降、長短期金利は上がり続けているのに、米ドル/円相場は米ドル売り円高基調にあるのです。これはなぜなのでしょうか。
債券市場の需給要因
米国債の利回りが上昇しているということは、裏を返せば米国債価格が下がっているということです。つまり米国債は売られているということです。米国債は「米ドル建て」資産ですから、米国債の売りはすなわち米ドル売りです。
日本の年金基金や生命保険会社などの機関投資家らは、流動性の高い安全資産である米国債の運用金額も巨額です。彼らのような日本の機関投資家勢が金利上昇局面で債券価格が急落したことに慌てて米国債を売却して損失拡大を防ごうと動けば米ドル/円相場にも影響が及ぶと考えられます。
下落を始めた米国株
下がっているのは米国債券だけではありません。米国株も下落圧力にさらされています。市場がリスクを取れる環境にあるなら、債券売りでキャッシュ化されたマネーは株式市場に流れ込みます。逆にリスク回避局面では、株を売ってキャッシュ化されたマネーは債券市場に逃げ込みますが、今起きているのは、債券も株も売られているという緊急事態時の様相です。
このようなリスクオフ相場では「キャッシュ・イズ・キング」と言って現金が最も安全とされます。また、このような場合に選好されるのは「円」です。なぜ円に資金が逃げ込むのでしょうか。
対外純資産30年連続世界一の日本
日経新聞によると日本企業や個人、政府などが保有する対外純資産は2020年末時点で356兆9,700億円で、30年連続で世界最大の地位を維持し続けているとのことです。
通常は海外に置かれている対外資産ですが、何かしら経済にショックが起きた場合、キャッシュを必要とする日本の投資家が資産を処分して日本に戻す=米ドルから円に戻す、という行動が誘発されます。
これを資金の本国回帰=レパトリエーションと呼びますが、これは世界の投資家が共有している事実であることから、リスクが生じると、日本の投資家らのレパトリが円を強くするとの連想が働き、マーケットではリスクオフ=円高になりやすいのです。
足元ではあまりにも急激な金利上昇に怯えた投資家らの米債券売り、株売りでキャッシュ化された米ドルが円に逃げてきていると考えられます。株が崩れることなくマーケットがリスク選好で動いている時は、米ドル高円安となりますが、これが逆流していると考えられます。
2022年は米国の金融政策の転換によって株や債券市場が不安定となる可能性が高く、その場合は米ドル高円安になりにくい、ということも覚えておきましょう。