◆開高健の代表作「オーパ!」完全復刻版の刊行に際して出版元である集英社が企画広告を出している。愛読者がその魅力を語り継ぐというもので、先週12月9日(ちなみに開高健の命日)に登場したのは楠木建先生。「私は室内生活者なので、世の中で関心のないものを2つ挙げろと言われたら、『アマゾン』と『釣り』なんです」と楠木節炸裂である。楠木先生いわく、「優れたストーリーや演出の基本は意外性にある」とのことだから、小欄もここで、思い切り話題を転換してみよう。
◆少し前のことになるが、スイスのビジネススクールIMDが公表した2021年の「世界デジタル競争力ランキング」で、日本の総合順位は64カ国・地域のうち28位というニュースを日経産業新聞が報じた。17年に調査を始めてからの最低を更新し、中国や韓国、台湾などアジア諸国との格差は鮮明だと伝えている。日本がデジタル化で遅れているなんて周知の事実だからニュースバリューはないが、この記事の後半に、悲しすぎて笑えないのだけども、やはり失笑を禁じえない話が出てくる。地方中堅企業のDX担当者が、役員にアマゾン・ドット・コムについて聞いたところ、3分の1が知らなかった。「アマゾン川だと思っている人もいた」。
◆地方の中堅企業だから、ということではない。中央官庁も酷いものだ。18歳以下の子供に10万円を配る事務経費は約1200億円。そのうち、5万円の現金給付分が280億円なのに対し、5万円相当のクーポン配布にかかる費用が967億円だ。クーポンの印刷代や郵送費、コールセンターの設置費用など、現金給付に比べて余計にコストがかかるためだという。印刷?郵送?スマホのアプリでデジタルクーポンをダウンロードしてもらうわけには…いかないだろうな、この国では。
◆楠木先生が「オーパ!」の意外性を指摘したのは、最後のほうで首都ブラジリアに舞台が移るところだ。さんざんアマゾンの密林を活写して、その末に対極とも言えるブラジリアを持ってくる配置の妙。野生のジャングル、アマゾンVS人工的な計画都市ブラジリア。この構図をグローバルに拡大して、世界の国々を分類した場合、日本はどちらに入るだろう。ブラジリアか、アマゾンか。この国の「未開地」ぶりを見るに、答えは明白だろう。