すでに2010年以降では最大の中長期的「上がり過ぎ」
一時80米ドル台半ばまで上昇したWTIが先週は80米ドル割れとなるなど、原油相場が反落した(図表1参照)。原油高を抑制するべく、米国などが協調で国家備蓄の放出を検討していることへの懸念からとの理解が基本だろう。では、原油高は転換点を迎えたのか、それともまだ続くかについて今回は考えてみる。そして後でも述べるように、そんな原油相場の動向は為替相場にも影響する可能性がありそうだ。
ここまでの原油相場上昇の理由は、1つには空前のカネ余りの影響があるだろう。それに加えて、いわゆるESG(環境、社会、ガバメント)投資によって、化石燃料の長期開発がストップしたことが相場上昇をもたらしている可能性がある。そうであれば、そういった状況が大きく変わらない限り、国家備蓄石油放出といった応急処置で原油相場上昇の流れが変わるのは難しいとの見方が基本だろう。
そもそも米国は、シェール原油の登場により今や「世界一の産油国」であり、その意味ではかつてのサウジアラビアなどに代わって「スウィング・プロデューサー(需給調整役)」のポジションにあると見られている。それなら、原油高抑制は、中東などOPEC(石油輸出国機構)より、そして国家備蓄放出への協力を他国に求めるより、シェール原油の増産こそが有効だろう。
そんな最も有効と考えられる対策が、民主党内左派などからの反対でバイデン政権には出来ないことが見透かされたようになっている中では、原油相場上昇の流れが変わるのはやはり難しそうだ。
ただ1つ気になるのは、そういった中で原油相場の上昇が続いてきた結果、中長期的な「上がり過ぎ」懸念も強まってきた可能性があるということ。WTIの5年MA(移動平均線)からのかい離率はプラス50%程度まで拡大、少なくとも2010年以降では最大となった(図表2参照)。要するに、足元の原油相場は、2010年以降では中長期的な「上がり過ぎ」懸念が最も強くなっている可能性がある。
WTIの5年MAからのかい離率は、2010年以前にはプラス100%以上に拡大したこともあった(図表3参照)。今回も同かい離率がさらにそこまで拡大するなら、足元の5年MAが55米ドル程度なので、WTIは100米ドル以上へ一段の上昇に向かう可能性はありそうだ。
ただそもそも、2010年以前と以後では、同かい離率の変動範囲が変わったようにも見えるので、果たして今回同かい離率がさらなる拡大となるか懐疑的な面もある。原油価格安定化の本質的な対策をとらず、その場しのぎ的な対応を続けた結果、原油相場がすでに中長期的な「上がり過ぎ」限界に達しつつあるということなら、対策の有効性には関係なく、原油相場上昇の流れが変わる可能性もあるのかもしれない。
いずれにしても、そんな原油相場は、10月頃からユーロ/米ドルなどと順相関の関係が強くなっている(図表4参照)。原油高=ユーロ高・米ドル安、原油安=ユーロ安・米ドル高といった関係が基本だ。この関係が続き、原油高の流れが変わらなければ、ユーロ高・米ドル安であり、原油安に転換するならユーロ安・米ドル高要因が基本になる。