みなさん、こんにちは。日経平均は一進一退の動きとなってきました。ほぼ出揃った上場各社の上期決算や通期見通しは概して好調ながら、もう一段の上振れがあるのか、ここが業績面での当面のピークなのか、という点で市場の見方が拮抗してきたように感じています。

コロナ禍沈静化後、確かに人流は回復してきましたが、リベンジ消費はまだ本格化していません。個人レベルでも安心して良いのか、まだ警戒を怠るべきでないのか、迷いがある印象です。

私自身は楽観的なスタンスにはありますが、これから年末に向けてどれだけコロナ禍前まで回復するのか、その動向が今後の相場の方向性を大きく決定付けるのではないかと注視しています。

2022年4月から始まる東証新市場

さて、今回は「東証新市場」を採り上げてみたいと思います。このテーマは約2年半前に「東証の株式市場再編」として書いたコラムの続編となります。この時はちょうど東証による株式市場再編が話題に上り始めた時のものでしたが、それからわずか3年程度で市場が実際に再編されることとなりました。

この時のコラムでは、より高いステータスの市場での上場を維持するために、ボーダーラインクラスの企業が積極的に企業価値の増大に向けて動き始める可能性は高く、そのような企業に投資チャンスがあるのでは、とまとめました。

現在もこの考え方には変更がありません。当然、このような流れは株式市場全体として望ましいことであり、これが市場の活性化やより質の高い企業の上場へと連鎖的に繋がっていくと期待したいところです。

新しい市場区分はプライム、スタンダード、グロース市場の3つ

新市場のスタートが2022年4月からということもあり、ここにきて上場各社からはどの市場を選択するのかという発表が相次いでいます。これまでの発表を見る限り、大まかには、東証一部上場企業はプライム市場を、二部上場企業とジャスダック上場企業はスタンダード市場を、マザーズ上場企業はグロース市場を、それぞれ選択しているように思えます。

しかし、企業側の選択がそのまま新市場の決定になるということではありません。各市場は発足に伴って明確に上場基準を定めており、そのクリアが条件となるためです。

特に一部上場企業のみが選択可能なプライム市場においては、高いガバナンス体制の確立に加え、時価総額や流通株式時価総額、日々の平均売買高などにおいても一定水準以上であることが求められ、最も条件の厳しい市場となっています。

現時点ではまだその水準に届いていない企業でも当面は移行期間としてプライム市場での上場が可能ですが、この期間中に条件をクリアする責務を負うことになります。クリアできなければどうなるのか、その詳細はまだ不明ですが、おそらくはスタンダード、もしくはグロース市場への市場変更が課されるのではないかと私は想像しています。

戦略的な企業価値引上げシナリオが株価を上げる要因に

しかし、東証一部企業において、これは避けたいところでしょう(最初から想定していたのならまだしも)。努力した結果として市場が「格落ち」するというのはその経営手腕が問われることになります。

TOPIXの採用銘柄から外れるとなると(企業価値とは関係なく、需給的要因によって)株価の下落も予想されます。そのため、プライム市場上場条件をまだ満たしていないものの、既にプライム市場を選択している「当落線上」の企業は、移行期間中に相当の「企業価値拡大」戦略を推進する可能性が極めて高いと考えられるのです。

実際、そのような当落線上の企業群は年内を目途に東証から企業価値引上げに向けてのシナリオの提示が求められています。おそらく年明け早々にもそういった企業群は、そのシナリオを実現するための具体的な中期経営計画を策定、発表するというスケジュールで動くのではないかと予想します。

投資チャンスという視点では、年内に提示される企業価値引上げシナリオ、そして、その後の経営計画はグッドニュースとして当落線上企業の株価の引上げ要因になると考えます。

しかし、重要なのはその中身です。何かしらの開示さえあれば、それがそのまま好感されるという単純なことにはならないはずです。何故なら、当落線上企業の戦略が一斉に出始めるために横比較が可能となり、荒唐無稽な計画や抽象的で実現性に疑問の残る計画は比較的容易に炙り出されてしまうことにもなるためです。投資家としては、企業側が提示する計画やシナリオをしっかり精査して銘柄を選択する必要があります。

投資チャンスの見極めポイント

では、シナリオ、計画の精査ではどこに注目すれば良いのでしょうか。将来のことでもあるので現時点で正解はありませんが、具体的な数字で説明がなされているか、自社の客観的な強みが提示され、それが成長シナリオに反映されているか、楽観的な前提を置いていないか、単に業績伸長だけでなく資本効率(資本コスト)の改善にも言及されているか、といった点の確認は必須です。

それらを注視しながら何社かの計画を横並びで比較してみて下さい。おぼろげながらでも、練り込まれた計画なのか、(言葉は悪いですが)ノリで策定された計画なのかという違いは自ずと見えてきます。面倒に思われるかもしれませんが、こういった訓練は銘柄選択の眼力を養う上で避けて通ることはできません。

今回は同じようなタイミングでプライム市場残留に本気の企業が一斉に計画を出すため、各企業を比較し、勉強するには絶好のチャンスです。是非とも腰を据えて各社の資料を読み込んでみてください。その優劣を見極める眼力は間違いなくついてくるはずです。