みなさん、こんにちは。『今どき、株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。

株式市場はここもと一進一退の推移が続いています。さすがに半値戻しを達成した後は、戻り売りも増えてきた印象です。景気動向や世界の貿易状況に対する先行不透明感が否めないことから、一旦手仕舞いを考える投資家も少なくないのでしょう。

上値を切り上げていくにはまだ材料が足りないという印象は否めません。ざっと挙げるだけでも、海外ではブレグジット、フランスのデモ継続、米中貿易摩擦の行方、朝鮮半島情勢などが不安要因として燻り、国内でも景気減速懸念に加え、消費増税や統一地方選挙の帰趨がまだ見えていません。そういった状況での株価の日柄調整はむしろ健全だと筆者は考えています。引続き慎重な見方を継続したいところです。

1部上場企業数は過去30年で1,000社程度純増

さて、今回は「東証の株式市場再編」をテーマに取り上げてみましょう。昨年末に、東証が上場市場の再編を検討しているとの報道がなされました。この時はもう少し足の長い話かと筆者は受け止めたのですが、それからどんどんと話は進展し、既に再編後の市場構成についてかなり具体的な青写真が提示されるようになっています。

東証はまだ正式なコメントを出していませんが、事態はかなり急ピッチで進展しそうな流れにあるのではないかと想像します。そこで市場再編の影響について、改めてここで議論をまとめておきたいと考えました。

現在、市場で株式を公開している企業はおよそ3,600社あります。このうち、もっともステイタスの高い「1部上場」企業は2,100社を占めており、実に約60%が1部上場企業となっています。最高ステイタスが過半ともなれば、稀少感の低下からそのステイタスに疑問が投げかけられるのは当然でしょう。上場市場の再編が取り沙汰されるのは理に適ったものと思えます。

これには2000年代以降、世界の証券取引所が急拡大する中、地盤沈下を避けるべく東証も上場企業数の拡大を積極的に進めてきたという背景があります。上場基準を緩和した新興市場(マザーズなど)の創設、さらにそれらの市場を経由しての指定替え基準も引き下げた結果、1部上場企業数は過去30年で1,000社程度も純増するという急拡大となったのです。

上場の意味や覚悟すら理解できていない経営陣も

これは、資本市場の活性化に繋がったとも言えますが、粗製乱造による水増し上場が増えたと言うこともできるでしょう。

実際、筆者は仕事柄、新規上場企業の経営者とお会いする機会も多いのですが、明らかに上場ゴールを狙っていたり、その他市場を1部上場への踏み台としてしか見ていなかったり、果ては上場の意味や覚悟すら理解できていないといった経営陣は決して少なくありません。

この会社が上場するのか…と頭を抱えることは何度もありました。そういった観点からは、水膨れした市場を明確に分類してスリムアップする必然性を、筆者は実感を持って理解できるのです。

あえて短絡的に言えば、世界に劣後しないための上場基準緩和策が、皮肉にもクオリティの低下を喚起してしまったということなのでしょう。しかし、そうだとすれば、本当の意味で証券市場の質の向上を図っていくにはむしろ上場維持審査を厳格化し、不適切企業を資本市場から大胆にキックアウトすることこそが必要だと考えます。

同時に、不正会計企業への対応でダブルスタンダードが見え隠れしたことなど、東証そのものの審査姿勢の弱さもまた対処すべき問題を抱えていると強く感じています。個人的には、市場再編を図るよりも上場維持にハードルを設ける方がむしろ急務と位置付けたいところです。

市場再編は「割安株」の発掘に効果を発揮する

話を元に戻しましょう。では、市場再編で我々投資家にはどういった投資チャンスがあるでしょうか。ターゲットとして期待するのは、高いステイタスでの上場を維持するためにIRや株主還元により積極的に臨もうとする企業でしょう。

これはやや不純な動機とも言えますが、結果的に経営陣の意識改革がなされ、IR・株主還元が充実するきっかけとなれば、結果オーライと考えます。上場維持ボーダーラインクラスの企業で、かつ経営陣が株式市場に真摯な姿勢で臨んでいれば、十分その対象としてリストアップできるのではと予想します。

また、市場が特性別に再編されることで、バリュエーション(PERやPBR)の比較も容易になります。これにより、同じ属性でありながら割安に放置されていた企業の投資魅力度が浮き彫りになってくると考えます。これらは再編を機とした水準修正という一過性の動きとなりますが、それでも「割安株」の発掘には十分効果を発揮するでしょう。

ただし、これらは逆に見れば、上場市場維持に執着のない企業や割高であることが見え難かった企業の株価にとっては当然、逆風となります。企業そのものの付加価値に変化はなく、単なるシステムの変更である以上、メリットとデメリットの総和はゼロとなって然るべきだからです。メリットと同量のデメリットが、少なくない企業に発生するということもまた肝に銘じておくべきでしょう。