災害激甚化で相次ぐ電柱倒壊

日本は昭和60年代初頭から電線類を地中に埋設するなどの無電柱化に取り組み、一定の整備が進んできました。ただ、その水準は欧米やアジアの主要都市と比べても大きく遅れています。無電柱化は防災性の向上や景観形成の観点から実施されてきましたが、近年は自然災害の激甚化に伴い二次災害防止の観点でも必要性が一段と増しています。台風や豪雨、地震などの災害が頻発化する中で、電柱倒壊による停電や通信障害が長時間に及ぶケースも生じています。災害時のライフラインを保つ上でも無電柱化は有効な施策となっています。

最近では2018年の西日本豪雨で大雨・土砂崩れによる電柱倒壊が同時多発的に発生したほか、同年の台風21号は倒木などもあって多数の電柱が倒壊しました。2019年の台風15号では東京電力管内で約2,000本の電柱が倒壊するなどの被害を受けました。

近年の台風・豪雨災害による送配電設備への被害
出典:経済産業省資料

こうした状況を勘案し、2021年度から始まった「防災・減災、国土強靱化のための5ヶ年加速化対策」では「市街地等の緊急輸送道路における無電柱化対策」を施策として挙げています。電柱倒壊のリスクがある市街地などの緊急輸送道路(約20,000キロメートル)で無電柱化着手率は2019年度時点で約38%ですが、これを2025年度に約52%に引き上げる予定です。中長期の目標としては2059年度に100%の達成を目指しています。

移行コストやメンテナンスが課題に

一見メリットの多い無電柱化ですが、地中深くに電線などを通すためには設置コストの高さや点検・復旧作業の難しさがデメリットとして挙げられます。そこで、国土交通省が2021年5月に新たに策定した「無電柱化推進計画」では新技術・新工法の促進に加え、2025年度までにネックとなっているコストについて約2割の削減を目指す方針を示しました。 

近年は地方自治体が無電柱化推進に向けた条例を施行する例も増えており、将来的に各地で無電柱化が加速する可能性があります。本格的に普及が進むと、コンクリートや電線などのメーカーを中心に膨大な需要が発生するとみられています。関連銘柄として注目度の高い会社を以下にまとめました。

無電注化関連銘柄
出所:株式会社QUICK作成

イトーヨーギョーなど周辺部材を手掛けるメーカーに注目

無電柱化を進めるには電力線や通信線、関連設備などを地中に埋設する必要があります。いくつかの方法がありますがが、日本では主に「電線共同溝方式」が主流となっています。電線を地中に埋めるとなると、従来の電柱に電線を架け渡す方式と異なり地中に電線を納める溝を用意する必要があります。溝やフタなどの周辺部材を製造する企業が恩恵を受ける可能性が高いほか、地中化を進める際には電線の需要が増えるとの見方もあり電線メーカーの活躍も期待されています。 

イトーヨーギョー(5287)は各種コンクリート製品を作るメーカーで、無電柱化の際に電線をボックス型の製品内部に配線できる共同溝の製造に携わっています。道路環境によって使い分けできる「D.D.BOX」シリーズ、狭小空間に特化した「S.D.BOX」シリーズなど多種多様な無電柱化製品を扱っています。虹枝(5603)は電線地中化の取り組みが始まった当初から、電線地中化用鉄蓋の設計・製造に携わっており、様々なサイズや環境に合わせた製品を販売しています。 

古河電気工業(5801)は9月に神奈川県横浜市で産学公民のイノベーションを推進する「横浜未来機構」への参画を発表しました。同プロジェクトでは無電柱化コストの低減なども含めた新しい街づくりをコンセプトとする実証実験を予定しています。同社は無電柱化を低コストで推進するための地中埋設用ケーブル保護管「角型エフレックス」を扱っており、受注拡大の弾みとなる可能性もありそうです。 

最も無電柱化が進む東京23区でも、無電柱化率は1割にも満たない状況です。逆に言うと今後さらに拡大余地がある分野ともいえ、株式市場にとって無電柱化は息の長いテーマの1つとなりそうです。