>> >>特別インタビュー【1】ファイザー(PFE)のコロナ飲み薬や他ワクチンの見通し、mRNA技術の将来性とは

優先事項はコロナ飲み薬、RSウイルスワクチン開発

岡元:次の大型新薬の発表予定はありますか。

スティーヴォ氏:先述の(こちらで述べた)新型コロナウイルスの「プロテアーゼ阻害剤」という抗ウイルス剤の臨床試験データがまもなく得られると思います。データと安全性が良好であれば、早ければ今年末に承認申請し、来年には患者さんに提供できるようにしたいと考えています。まだ新型コロナウイルスのパンデミックの真っ只中にいますから、弊社にとって最優先事項です。

もう1つは、「RSウイルス」のワクチンです。これは妊娠している母親を対象に開発しています。母親が新生児に深刻な問題をもたらすRSウイルスから赤ちゃんを守るための短期的な免疫力をつけるワクチンです。さらに、成人向けのRSウイルスワクチンも開発しており、年内にはそのデータも公開したいと考えています。

RSウイルスはインフルエンザや新型コロナウイルス、肺炎球菌などと同様、高齢者に深刻な影響をおよぼす疾患です。特に冬に重症化する可能性があるため、積極的に開発を進めています。

これらの2つは、早期に実現できるよう取り組んでいます。なぜなら、人々の生活や社会全体に非常に大きな影響を与える可能性があると考えているからです。

2025年までにコロナ関連収益を除いても6%成長を予想

岡元:2025年までは、御社の収益ドライバーは新型コロナワクチンのままという認識で正しいですか。

スティーヴォ氏:それが収益ドライバーの1つです。新型コロナワクチンもインフルエンザと同様に、冬季シーズンが始まる前の秋に、毎年ブースター接種が必要になるだろうと考えていますが、まだ確定ではありません。臨床試験フェーズIIIで、2回ワクチンを接種した後にブースター接種を受けた患者さんを対象に追跡調査を行い、来年の冬の前に、再度検証する予定です。

そのうちの一部の患者さんは再接種が必要となり、2回目のブースター接種を受けることになるでしょう。また一部の患者さんにはプラセボ(偽薬)を投与して、患者さん同士の比較を行い、それで必要性が確認されれば、毎年新型コロナワクチンを接種する可能性が出てきます。

しかし今回の新型コロナウイルスが追加のワクチンを必要としないものであっても、2年後、3年後にワクチンを必要とするような別の病気が出てくる可能性もあると思います。そうした場合でもmRNA技術の利点を活かし、非常に迅速にワクチンを開発できると考えています。

2020年から2025年の間に、弊社の収益は新型コロナウイルス関連の収益を除いても、6%成長すると予想しています。その成長を牽引するのは既存の大型薬であり、成長のうちの約80億ドルを占めることになります。

その6%の増収を達成するため、弊社は現在からそれまでの間に研究開発パイプラインから60億ドルの貢献を期待しています。

研究開発では6つの治療分野に注力

岡元:研究開発の注力分野について教えていただけますか。

スティーヴォ氏:弊社は「患者さんの生活を大きく変えるブレイクスルーを生みだす」という企業目的を掲げています。それは非常に重要な意味を持つ薬の開発を意味しています。そのため、弊社は6つの治療分野に焦点を当てています。

1つは「腫瘍学」、つまり癌です。2つ目は「免疫」、3つ目は「炎症」です。先述の(こちらで述べた)「サイバインコ」のような薬です。4つ目は「内科」で、血栓を防ぐための血液をサラサラにする「エリキュース」という薬があります。5つ目は病院の「製品」です。6つ目は「希少疾患」で、例えば血友病などの病気の患者さんを治療しています。

これらが弊社の注力している分野あり、研究開発における薬剤開発の焦点でもあります。

岡元:先ほど6%の増収と仰いましたが、これはM&Aなしで、内部成長により成し遂げる予定でしょうか。その場合、M&Aがあれば予想も変わってくると思います。M&A戦略についてもお聞かせいただけますか。

スティーヴォ氏:2020年から2025年までの6%成長については、2020年9月末に発表しました。その目標の中で新型コロナウイルスに関連するものや、未実施のM&Aは除外されています。ですので、それ以降に行ったM&Aや、今から2025年までに行う可能性のあるM&Aは、売上を増やす可能性はあります。

海外でも革新的な新薬開発にフォーカス

岡元:海外でのビジネス戦略について教えてください。日本市場に対してはどうですか。

スティーヴォ氏:日本に進出したのは1953年のことですが、日本は弊社にとって非常に重要な国で、最大の市場の1つです。

2012年には、ジェネリック医薬品事業や特許切れの医薬品事業をマイラン社との合弁会社に移行しました。そして2019年後半には、その種の事業全体がヴィアトリスという会社に統合されました。ヴィアトリスはその事業とマイラン社の統合によって設立され、その株式は株主に割り当てられたため、弊社はもはやそのジェネリック事業には関与していません。

日本でもグローバルでも、革新的な新薬を開発し、患者さんの満たされていないニーズを満たすことに注力しています。

岡元:ESGへの取り組みについてお聞かせください。

スティーヴォ氏:ESGは、弊社にとってもダイバーシティ&インクルージョン、ジェンダー平等、気候変動、そして誰が医薬品にアクセスできるかといった視点において非常に重要な意味を持っています。先ほど(こちらで述べた)ワクチンを公平に入手できるようにする取り組みについてお話ししましたが、特に新型コロナワクチンの提供の際にもそのような視点を重視しました。

長期的に配当を増やしていくことを目標に

岡元:御社は素晴らしい配当の実績をお持ちですね。

スティーヴォ氏:はい。弊社は1849年に設立された当初から配当を行っていたわけではありませんが、直近は300回以上連続配当を行っており、10年以上増配しています。その点は非常に誇りに思っています。配当金を支払い、そして増配していくことは、会社としても非常に重要な資本配分の優先順位の1つです。

岡元:自社株買いの方針についてお聞かせ下さい。

スティーヴォ氏:弊社はかなりの規模の自社株買いも行っていますが、最優先に考えているのは配当です。さらに事業への再投資を中核的な優先事項とし、M&Aや外部のイノベーションをもう1つの中核的な優先事項としています。このような優先順位をつけた上で、まだ資金が余っている場合は、これまでは自社株買いによって株主に還元してきました。1つ明確に言えるのは、自社株買いの水準は将来の株主への利益還元のための投資機会に応じて、長期的に上下するということです。

配当金は重要な優先事項の1つであり、弊社の配当利回りは3.5%を超えています。米国の30年国債の利回りが2%程度しかないことを考えると、これは日本でも米国でもかなり良い利回りだと思います。今後も配当を長期的に増やし続けることを目標としています。

岡元:それでは最後に、日本の個人投資家の皆さんにメッセージをお願いします。

スティーヴォ氏:弊社に興味を持っていただきありがとうございます。多くの皆さんが弊社の株主になってくださると嬉しいです。今回のインタビューで弊社のことを少しでも深く知っていただき、そして皆さんが信じて、尊敬し、投資したいと思うような会社として選んでいただければ、それは大変な名誉なことです。

岡元:スティーヴォさん、本日はお忙しい中お時間をいただきありがとうございました。

スティーヴォ氏:こちらこそ、ありがとうございました。

本インタビューは2021年10月21日に実施しました。