WTI原油価格は約7年ぶりの高値を更新

原油価格が上昇している。10月4日にOPECプラス(※1)が閣僚級会合で予定以上の追加増産を見送ったことを受け、翌10月5日にブレントは2018年10月以来の1バレルあたり83ドル超、WTIは2014年11月以来の同79ドル超まで上昇した。

OPECプラスは2020年5月から協調減産を行っているが、需要回復を受けて、徐々に減産幅を縮小(=増産)している。今回の会合では11月の増産を決定したが、増産量は7月の会合で合意した、「月毎に日量40万バレルずつ増産する」という内容に沿ったものに留まった。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響による需要の下押し圧力懸念や、米国など非OPECプラスの生産量拡大観測などから、増産への慎重な姿勢を崩さなかったとみられる。

エネルギー価格の上昇を懸念する市場参加者は、生産量の拡大が可能なOPECプラスに対して予定以上の増産を期待していたが実現せず、原油価格は一段高となった。

【図表】原油価格推移(ブレント、米ドル/バレル)
出所:Refinitivのデータから丸紅経済研究所作成

2020年来の原油価格上昇の背景には、(1)世界的な金融緩和(金融要因)、(2)コロナ禍からの経済回復に伴う需要回復(需要要因)、(3)OPECプラスの協調減産や米国シェールオイル生産の回復遅れ(供給要因)などがある。

加えて、足元では、米国におけるハリケーン「アイダ」に起因する生産回復遅れ、OPECプラスの8月の増産計画の未達に加え、世界的なエネルギー供給不足懸念という新たな要因が寄与している模様だ。

高まる世界的なエネルギー供給不足懸念

原油価格以上に、天然ガス価格、石炭価格の上昇が顕著だ。原油価格の年初からの上昇率は約6割であるが、欧州天然ガス価格(TTF)は年初の約5倍、北東アジアLNGスポット価格(JKM)は約2倍、石炭(豪州産一般炭)は約3倍に高騰している。

これは、コロナ禍からの経済回復で世界的に電力需要が増加したことに伴う発電用燃料需要の増加に加え、各々に供給面での制約が存在するためだ。脱炭素社会に向けた機運が高まる中で、化石燃料への投資不足が将来の供給減少につながるとの観測もあり、エネルギー供給不足への懸念が高まっている。

世界的な天然ガスの高騰は、欧州の深刻な在庫不足が最大の要因とされる。その背景には、欧州向けのロシアからの天然ガス輸出の減少、アジアにおけるLNG需要の増加に伴う欧州向けLNG供給の縮小、経済回復に伴う世界的な電力需要の増加、同じ発電燃料である一般炭価格の高騰および欧州排出量価格の高騰、風力発電量の減少、脱炭素に向けた発電燃料転換など、多くの理由が存在する。

また石炭も、中豪対立による豪州炭禁輸による中国国内炭価格の上昇、中国の炭鉱における環境規制や安全対策強化による減産、その他主要産炭地の事故や輸送トラブルなど、価格上昇の要因は複合的であり、解消は簡単ではなさそうだ。足元では、発電用の重油やディーゼル需要の増加観測が原油価格の上昇要因となっており、天然ガスや石炭価格からも目が離せない。

原油価格はどこまで上がるのか?

原油価格はどこまで上がるのだろうか。9月、米金融大手バンク・オブ・アメリカは、2021年の冬が厳冬になった場合、1バレル100ドル超もあり得るとの見解を示した(※2)。同社は下落リスクとして、新たな新型コロナウイルス感染拡大、米国のテーパリングに起因する混乱、中国の債務危機、イラン原油の市場復帰を同時に示しており、100ドル超はシナリオの1つではあるが、可能性として排除できない。

一方、原油需給は2022年に向けて緩和するとの見方が主流だ。OPECプラスは9月29日に開催した共同技術委員会(JTC)で、2022年の石油の供給過剰幅を、従来見通しの日量160万バレルから同140万バレルへ縮小したものの、供給過剰見通しを維持した。また、米国エネルギー情報局(EIA)も9月の短期見通しで2022年第1四半期から供給過剰に転じるとしており、2022年には需給が緩むというのが現時点の市場のコンセンサスだ。

また、原油価格上昇の背景にある世界的な金融緩和は、この先、引き締めに転じる可能性が高い。需要に影響を与える新型コロナウイルスの感染拡大や冬季の天候など不確定要因が大きいものの、足元の原油価格の上昇は、早晩落ち着く可能性の方が高そうだ。

一方、化石燃料への投資不足による将来的な価格上昇の可能性は残る。脱炭素社会に向けた具体的な目標共有のため、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が10月31日に開幕されるが、足元のエネルギー供給不足への懸念が、会議における議論に影響を与える可能性もある。原油をはじめとする長期的なエネルギーの価格は、脱炭素の進捗に左右される可能性が高く、会議の行方が注目される。


(※1)OPECプラスは、OPEC加盟国のうちリビア、イラン、ベネズエラを除く10ヶ国とロシアを始めとする非OPEC10ヶ国の20ヶ国で構成され、合計で世界の石油生産量の約4割を占める。
(※2)Reuters Sep.13, 2021 ”BofA could bring forward $100 oil target in event of cold winter”

 

コラム執筆:村井 美恵/丸紅株式会社 丸紅経済研究所