◆今日10月4日、臨時国会が召集され、第100代内閣総理大臣に岸田文雄氏が就任する。100人目の首相と聞くと、なにやら重みがありそうだ。なにしろ米国のバイデン大統領は第46代の大統領、英国のジョンソン首相で77代目の首相である。しかし、本当に第100代首相に「重み」があるか。ジョージ・ワシントンが米国の初代大統領に就任したのは1789年だから米国は230年余りで46人の大統領を生んでいる。1人当たりの任期は約5年。英国の首相は300年の歴史で77人だから1人当たり4年弱だ。

◆日本は伊藤博文が初代の総理大臣に就任したのが1885年でまだ136年しか経っていない。それで100人目の首相だから1人当たりの任期は1.36年である。日本は首相が毎年のように替わると言われて久しいが、こうして長期で見ても、やっぱり1人当たりで1年半に満たない。永田町では「長期政権の後の政権は短命に終わる」とか「平成以降の外相経験者首相は2年もたない」「早稲田出身の首相は短命」などのジンクスがある。これらはすべて岸田氏に当てはまるものだが、どうかそんなジンクスに負けず長期政権を目指してほしい。

◆9月6日付小欄で、僕の仮説「政権の命脈は主義主張が時代に合うか合わないか」が正しいとするなら、今の時代に合うのは再分配政策を重視する岸田さんだと述べた。当たったなどとはしゃぐ気はないが、新自由主義がいまの時代に合わないのは確かだ。だからと言って、この日本で「新自由主義との決別」を大上段に掲げるのはいかがなものか。米国や中国でネット企業の創業者が大きな富を独占し格差が拡大しているが、それは彼らが社会にイノベーションを起こし経済を成長発展させた見返りである。日本は成長していないのだから同じ議論は当てはまらない。

◆岸田氏は「成長なくして分配なし。しかし分配なくして次の消費、需要も喚起されない。分配なくして次の成長もない」という。だが、それでは「卵と鶏」だ。成長より分配が先に来るとすれば、財政で負担する、すなわち国の借金で賄うということだ。それは将来の増税を国民に意識させ、お金は消費に回らない。経済学が教えるリカードの等価定理だ。やはり順番として正しいのは「成長なくして分配なし」だろう。岸田氏の経済政策の目玉は「令和版所得倍増計画」である。しかし、1%にも満たない成長率では所得が倍になるには100年かかる。いまから100代後の第200代内閣総理大臣の時代には達成できるかもしれないが。

*(注)元本が倍になるには年率7%複利で10年、0.7%の成長率では100年が必要である。