SNSなどで頻繁にFIREという言葉を目にする機会があります。

FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとった言葉で、経済的自立と早期リタイアを目指すライフスタイルのことです。特に2010年以降広がってきたもので、雑誌などでも頻繁に特集が組まれるくらい注目されています。

多くの若者が憧れるFIREという価値観

FIREに関しては、40代50代といったミドル世代よりも、20代30代の若者の方が憧れを強く抱く傾向が高いように感じます。会社に対する帰属意識も希薄になり、ライフスタイルが多様になったことも影響していると思います。

また、ブロガーやユーチューバーといった組織に縛られず、自分のコンテンツだけで大きな収益を上げる成功事例が出てきていることも、価値観の変化につながっているのだと思います。

終身雇用を前提に、大企業で働くことが当たり前だった私のような昭和バブル世代からは想像もつかない人生観を持っているのです。

上昇相場を前提に資産形成を考える危険性

FIREを実現する場合、仕事を辞めて、収入は資産運用やそれまでに蓄えた資産を取り崩すことで生活資金を捻出することを前提にしています。

しかし、現実問題として資産運用による資金だけで生活していくのは簡単ではありません。世界的な金融緩和によって、米国を中心に株式市場の好調な動きがここ数年続いており、投資で資産形成するのは簡単だと思い込んでいる人も多いと思います。日本でも、アベノミクス以降株価の堅調な動きが続いています。

更にNISAやiDeCoなどの税制優遇策の認知度が高まったこともあり、投資信託の積み立てによって資産形成する動きが広がっています。

安定した相場がこれからも続くことが当然だと考え、過去の延長線上に未来があると思い込んでいるのかもしれません。しかしながら、かつてのブラックマンデーやリーマンショックのような大きな相場の調整が今後起こらないという保証はありません。

ここ数年の株式市場の上昇から、将来の自分の資産を想定するのは、楽観的すぎます。

株式や不動産、あるいは暗号資産の大きな価格調整が起こった際に、保有資産の価値が大きく下落し、パニック状態に陥る個人投資家が多数発生することを私は懸念しています。

お金を取り崩す方法では老後は乗り切れない

資産運用で資産を増やすのではなく、例えば1億円といったまとまった金額を保有し、FIREによってその保有資産を取り崩していく、といった戦略を考えている人もいます。

1億円あれば、毎月30万円使ったとしても年間360万円です。約30年は資金が枯渇しない計算になります。

しかし、実際にはこのような保有資産を取り崩して生活するライフスタイルは成り立ちません。

なぜなら、資産が減ってくれば徐々に将来の不安が増大し、当初の計画通りにお金を使うことに恐怖を感じるようになるからです。

キャッシュフローと呼ばれる新しいお金が入ってくる仕組みを持っていない人は、いずれ資産が枯渇するリスクを恐れるようになります。

インフレや円安になれば経済環境は激変する

株価や不動産価格の調整だけではなく、経済環境が激変する可能性もゼロではありません。

例えば、インフレによる物価上昇が発生すれば、預貯金のような保有資産の実質的な価値が下落する可能性が出てきます。また、円安が進めば保有する円資産の相対的価値は下がっていきます。

保有資産の実質的な価値を守ることは簡単なようで、実は難しいことなのです。一旦資産を減らしてしまうと、仕事から得られる収入が無い場合、それをリカバリーするハードルは高くなります。

FIREブームに安易に乗ってはいけない

FIREブームの中で「自分が好きなことをやって生きる」「会社に縛られない人生」といった言葉に煽られて、感情的に行動してしまう人もいるようです。

しかし、FIREを目指して安直に仕事を辞めても、最終的に保有する資産を使い果たしてしまえば人生設計そのものが台無しになってしまいます。

FIREを目指して懸命に仕事をし、無駄な出費を抑えて投資に資金を回していくことは、決して悪いことではありません。

ただし、ブームに乗る前に、これからの数十年という長い人生において、マネープランを冷静に確認してから慎重に最終決断を行うようにすべきです。