近年、海外のアクティビストからの日本企業への株主提案は増加傾向にあります。なかでも、資産運用会社の米RMBキャピタル(以下、RMB)は、積極的に日本企業に対して要求を出しています。この記事では、RMBが日本企業にどのような提案を出しているのかについて解説します。
RMBキャピタルとは
RMBは米国のシカゴを拠点とし、2005年4月に設立されました。2010年に米国西部に進出し、2017年にはニューヨーク事務所を開設するなど活動エリアを拡大しています。
日本株には2013年に投資を始めました。RMBは機関投資家や富裕層を対象に事業を展開。企業を徹底的に調査し、経営陣に積極的に提言することで知られています。
では、RMBは日本企業に対してどのような提案を出しているのでしょうか。2つの事例をご紹介します。
事例その1:伊藤忠商事(ファミリーマート)への提案
2020年8月25日、伊藤忠商事(8001)はファミリーマートに対するTOB(株式公開買付)が成立したと発表。伊藤忠商事の保有比率は65.71%となり、ファミリーマートは所定の手続きを経て、上場廃止となりました。
伊藤忠商事はファミリーマートの公開買付価格を2,300円とし、7月9日から8月24日まで実施していました。この公開買付価格に対し、反対を表明したのがRMBです。公開買付価格が2,300円では少数株主への配慮が不十分だとし、2,600円への引き上げを求めました。
RMBは、ファミリーマートの少数株主にとって、強圧的とも言えるTOBを実施していると主張しました。RMBは伊藤忠商事とファミリーマート両社の株式を保有していましたが、株主の立場から公開買付価格に対して反対を表明したのです。
事例その2:フェイスへの提案
フェイス(4295)は、2017年に日本コロムビアを完全子会社化しました。そのフェイスに対し、RMBは2021年5月、日本コロムビアをスピンオフしてIPOさせるべきだという株主提案を行いました。日本コロムビアは老舗の音楽会社として知られ、レーベル事業(音楽アーティストの発掘、育成、マネジメント)も手掛けています。日本コロムビアはレーベル事業が安定的に利益を上げていますが、フェイス単体による新規事業投資が赤字を垂れ流しているので、株式市場で正当な評価を受けていないと、RMBは考えていたのです。
そこで、RMBは日本コロムビアをスピンオフするという株主提案を提出しました。スピンオフとは、事業部門や子会社を切り離して資本関係のない別会社にし、独立経営に移行する仕組みです。この提案が実行されれば、既存株主は追加の出資なしに、フェイス株式に加えて新規上場する日本コロムビア株を保有できるようになります。
日本コロムビアは、2020年のコロナ禍でも黒字を確保した優良子会社です。さらに単独上場を行うことで、柔軟な資金調達や事業展開の迅速化など、日本コロムビアは様々なメリットを受けられ、同社の企業価値が上がるとRMBは考えました。
スピンオフによる現物配当は、経済産業省の特例措置を使えば、株主総会で3分の2の賛成が必要な特別決議ではなく、過半数の賛成で可能になります。
しかし、フェイスは「特例措置の前提となる事業者に該当していない」として、6月25日の株主総会の議案にしませんでした。これに対してRMBは議案とするよう申請しましたが、京都地裁が申し立てを却下。その理由としては、「事務負担が大きく、株主総会を開けなくなる可能性がある」というものでした。しかし、提案に対しては「株主提案権の対象になる」と適法性を認めました。
株式分配型スピンオフを求める提案が違法でないと判断されたことで、今後、他のアクティビストも同様の株主提案を出す可能性が出てきました。
アクティビストによる要求や提案が増加傾向
近年、アクティビストからの日本企業に対する提案や要求が増えています。2021年(6月末時点)の株主提案件数は、過去最多だった2020年と同水準のペースとなっています。 提案内容としては、企業に対して株主還元の強化や取締役の受け入れ、公開買収価格の見直しを迫る例が目立ちます。
日本市場ではコーポレートガバナンス・コードの改革によって、アクティビストに賛同する機関投資家が増えており、海外のアクティビストからも注目が高まっています。英国のアセット・バリュー・インベスターズや、米国のエリオット・マネジメントなど、新たに日本で活動するアクティビストも増えています。
アクティビストからの株主提案内容の変化
日本で活動するアクティビストが増えただけでなく、株主提案の内容も変わってきています。日本でアクティビストからの提案といえば、以前は自社株買いや増配の要求が中心でした。
しかし最近は、ガバナンス型の提案が増えています。例えば、持ち合い株の解消や、社外取締役の選任を求める提案などです。そして、さらに企業に成長戦略を提案し、企業価値の向上につながる提案をするアクティビストも増えてきています。
RMBは、新しい提案を行っているアクティビストと言えます。同社がフェイスに日本コロムビアのスピンオフを提案した例などは、成長戦略に関する提案と言えるでしょう。
今後、RMBがどの企業に、どのような提案を出すのか引き続き注目していきたいと思います。