前回のコラムでマネックス証券ではマネックス・アクティビスト・フォーラム等を通じて多くの個人投資家の方々から「株主視点」でのご意見をいただいており、このような声を企業に連携していることをご紹介いたしました。今回は実際にどういう個人投資家の声が届いているかを見てみましょう。

各々の個人投資家からのご意見は、よくその企業を見て投資されているからこそ出てくるものだろうと思われて、いずれも詳細に様々な上場企業の課題が書かれています。課題が書かれていると言っても、対象の企業への一方的な批判ではなく、各々の企業への思いを感じられるものが多い印象です。課題の種類ごとに実際に寄せられている声を見てみましょう。

株主還元に対する個人投資家からの意見

まず多いのは、株主還元についてです。企業が現預金を貯め込んでおり、それを個人投資家へ還元していないことへの批判が特にバリュー株において見られます。内容の詳細はご意見によっても異なるのですが、企業が通常の事業で得られるフリーキャッシュフローの水準を考えると配当が少なすぎる、などいたずらに株主還元を進めよという内容ばかりではないのが興味深いところです。ご意見によっては過去の決算や中期経営計画で説明していた株主還元方針と実際の株主還元が異なる、というような長年に渡ってその企業を分析しているからこそのご意見も見受けられます。

株主還元では増配など配当を増やしてほしいという声が多いのはもちろんなのですが、企業によってはグループのプレッシャーを意識していたずらに配当を行うことをやめてほしい、という意見や成長投資を行うべきであるという意見、配当の場合は即時課税になることで税制上不利なため、自社株買いを優先してほしいという意見など、増配とは逆の方向の意見も少なくありません。

成長している分野で事業を行っているのか、安定した分野で事業を行っているのか、どういう強みがあるのかによって、企業が行うべき財務戦略は当然に異なってきます、当たり前のことではありますが、個々の投資家はそのような違いをしっかりと見ており、各々の思いをもって投資していることに改めて気付かされます。

また、同様に投資家側の事情も各々でしょう。成長分野に投資することで、長期視点でもっと成長をしてもらいたいという長期投資目線の個人投資家もいれば、安定した事業で確実にキャッシュフローを稼ぎ、それを自身に還元してもらうことで生活に活かしたいというような個人投資家もいるでしょう。

日本には4,000社近い上場企業があり、各々の企業の事業内容、事業の将来性・収益性・安定性はまさに千差万別だと思います。個々の投資家はその中から自分が投資すべき企業を選んでいるのだということを強く感じさせられます。

企業のあり方やESGなど、企業への愛着を感じる意見も

企業のあり方についてのご意見も少なくありません。グループ戦略の見直しを求める声や、経営陣が世襲になっている、オーナー企業であること、親企業から派遣されてきた親企業しか向いていない経営者がいることなど、ガバナンスの改善を求める声が様々な企業に対して出されています。

親子上場自体にも否定的な声がいくつかありました。経営者の親族というだけで、実績のない人が役員になっているという声や、役員の一部に問題点があるなどの指摘もあります。「好き勝手にやりたいのであればいっそのことMBOをしてくれ」という意見は、そのような企業への投資家の気持ちを突き詰めたものであるように思います。

「創業者が亡くなった後、大胆な決断ができていない」など、大きく異なる事業を運営する企業について「各々の事業に必要な能力が異なるため、分社化したほうが価値が出る」など、その企業をよく見ているからこそ出てくる声もあります。これらの声は、上げている側の強い気持ちを感じます。前回のコラムで書いた天下を取れず、(少なくとも徳川家康が妥当という意味では)失意のうちにその生涯を終えた真田昌幸の思いに通じるようなご意見です。

もちろん、投資している企業の優れた点を取り上げる声も少なくありません。「その企業の技術力が専門家から見ても素晴らしい」「その企業の事業のコンセプトが普及・協賛に値する」
「ニッチな分野のオンリーワン企業である」「CSRへの取り組みが真摯である」、そして「素晴らしい技術や事業プランがあるにも関わらず、政府の認可や規制緩和がなされていない」など、企業への愛着を感じるような意見が多いことも印象的です。

企業への期待の声が多いこともそういう愛着を示しているのでしょう。「富士フイルムのように新たなビジネスを作れる企業だと思う」「燃料電池に注力し、クリーンエネルギー市場を牽引するような企業であって欲しい」「スピード重視で世界をリードしてほしい。大きな可能性があるため、大いに期待している」などの声からは、個別株式への投資の醍醐味を感じます。

ESGを意識したご意見が多いのも特徴的で、環境や継続性などの意見を書かれているものも少なくありませんでした。むしろ、その分野に投資をすることで貢献できる、というご意見も多くありました。ご意見には投稿者の年代も添えていただいています。投資経験年数を積んでいらっしゃるご年配の方が多いのではないかと想定していましたが、想定以上に30代の方もおり、20代の方も含まれていました。ESGへのご意見なども含め、年代により観点が異なっているのも興味深かったです。

個人投資家の声を反映した実際の事例

また、「マネックス・アクティビスト・フォーラム」の活動が始まってから、すでに1年以上にわたり上記のようなご意見を個人投資家の方々からお寄せいただいているのですが、ご意見が実現している例も少なくなく、その点でもこれらのご意見を提言してくださった個人投資家は、よく投資先の企業のことを分析されているのだと思います。

親子上場の企業で、上場廃止が妥当と書かれていた企業が実際に公開買付により上場廃止されている例や、ガバナンスがしっかりとできておらず「他社との合併など新たな企業のあり方を模索する時期」と意見で書かれていた企業が、実際に他社に対して増資を行い、筆頭株主として迎えることで信頼回復を図っている例がありました。

そして、様々なご意見の中でもっとも印象に残ったのは、値がさ株で分割などを行って買いやすくしてほしいという声です。思ったより多くの方がそういうご意見を出されていました。

個人投資家の場合、1銘柄に集中投資するリスクを取ることは簡単ではありません。そうすると、1株10,000円を超えるような値がさ株は、投資を行うのにその銘柄だけで100万円の資金が必要ということになります。

ファーストリテイリング(9983)、SMC(6273)、キーエンス(6861)、任天堂(7974)、東京エレクトロン(8035)、ディスコ(6146)、シマノ(7309)といった日本を代表するような企業はいずれも現状では株価が30,000円を超えています。優良な企業であるだけに株価が上がるということで、そのような優良な企業に個人投資家が投資しやすくなることは、個人投資家にとっても良いことですし、上記のような愛着を持つ投資家がいることは企業にとっても良いことなのではないでしょうか。