個人投資家が戦国大名に通ずる点
戦国大名家のうち、真田家は特に人気があり、真田昌幸、真田信之(信幸)、真田幸村(信繁)、はては真田大助(幸昌)や真田十勇士など、それぞれが様々な魅力を有しているように思います。真田家の人気は、小説やNHK大河ドラマなどでの扱われ方を見てもよくうかがわれます。2016年に堺雅人さんが幸村役を務めたNHK大河ドラマ「真田丸」などは、その典型と言えるでしょう。
さて、特に個別株投資を行う個人投資家はどこか戦国大名に似ているところがあるように思います。最終的に成果は勝利であれ、敗北であれ、自身が負うことになる点や銘柄選びなどの投資行動は、独りで考えていかねばならないところです。また、短期・中期・長期で自身の余力(戦国大名なら兵力でしょうか)や投資対象、世の中がどのように動くかを考えて、どのようなポジションを構築しようかという戦略性なども、どこか戦国大名と同様の検討を行っているように思います。株式取引は板という形式で売買状況が示されますが、板はいかにも戦場に見え、「600円の壁を破った・・・」といった表現は、まさに戦場のそれであるように考えられます。
戦国大名の中で最も個人投資家に近いのは?
さて、歴史上、様々な戦国大名が名を残していますが、銘柄選びをする個人投資家の方が自身を投影しやすい対象としては、真田家がピッタリ合うのではないでしょうか。一般的な個人投資家の方は投資戦略を重視されると思いますので、上杉謙信や武田信玄のような強兵ではないように思います。また、織田信長や豊臣秀吉、徳川家康は初期はともかく活躍している頃には大版図を有していたので、彼らもマーケットにおける個人投資家の心境とはまた違うように思います。真田家は小兵ながらよく考え、自身の独自の戦略で徳川家康のような大大名とよく戦って、しかも勝っていたところが、個人投資家の1つの理想のように思います。
そのような目線でいうと、大坂の陣で「真田丸」を築いて活躍した幸村、戦場を疾駆し、豊臣家に殉じた大助、真田の名を残した信之は、いずれも魅力的な戦国武将ですが、特に個人投資家のイメージに通ずるのは真田昌幸のように思います。大兵をもって迫る徳川家の攻勢を2度にわたって打ち払い、関ヶ原の戦いでは徳川秀忠率いる38,000の大軍を上田城にて2,000の兵で迎え撃ち、ついに秀忠に関ヶ原参陣を妨げるという堂々たる戦果をあげています。この戦い(第二次上田合戦)は様々な書籍で記されていますが、司馬遼太郎の歴史小説「関ヶ原」では昌幸・幸村の関係は微笑ましく、小気味よい戦いがよく描かれています。今年(2021年)2月、米国において空売りを行う機関投資家に個人投資家が立ち向かうというニュースが話題になりましたが、首尾よく勝利した個人投資家の心境は、この時の昌幸のそれに近かったのではないかなと思います。
さて、その昌幸の心境を示すものとして、同じく司馬遼太郎の歴史小説「城塞」での描写をよく思い出します。時は関ケ原の後で、大坂の陣の前、天下は徳川家康の手にあり、昌幸は幸村とともに紀州九度山に蟄居させられています。小説の中で昌幸は「家康程度のものが天下をとるとは」と常に言っているとされ、上記のように上田城に徳川を迎えて打ち負かした戦いに加え、武田信玄に仕えて参戦した三方ヶ原の戦い(武田方が大勝)も頭に「太閤殿下でさえ家康と小牧・長久手で戦って敗けをとられたのだが、あの男を相手に戦い、しかも勝った者は、信玄公と私しかいない。それも一度や二度ではないのだ」と述懐します。
この後の昌幸の描写が非常に印象深く、「自慢とか昔ばなしとかいったふうな気分ではなく、何番か立て続けに勝った将棋を、最後の勝負の途中で事故が起こり、駒をそのままにして中座せざるをえなかったような、つまり詰めの最後の一駒を打ちおろさずに棋譜が凍結されてしまったようなそのような悲痛の想いを沈めつつ昌幸は言うのが常であった。」と書かれます。この描写は自分が知恵をふるって、しかもその算段がうまくいったにも関わらず、自分ではコントロールできない何者かに成就を妨げられた悲憤がよく伝わってくるように思います。
株式投資においては、ポテンシャルのある良い企業に、良いタイミングで投資し、世の中のトレンドもその通りなのに、その企業の経営がまずく、株価が上がらない、投資成果につながらないような場合に、同様の悲嘆を感じそうです。よく業界を分析し、投資先を選択し、実際、その業界の企業はすべて好調なのに、その企業だけが冴えない。個別の会社をよく分析し、魅力的な資産に注目し、その資産の価値はいよいよ上昇(前回までの記事でご紹介した不動産会社などはその典型でしょうか)しているのに、企業が活用できず、業績・株価につながらない、などがそれに当たるでしょうか。このような場合、通常個人投資家は悲嘆に暮れるくらいしかありませんでした。
個人投資家の想いを活かす取り組みも
しかし、アクティビスト活動は、まさにそのような状況で企業に働きかけ、経営自体を動かそうという取り組みです。マネックス証券では、マネックス・アクティビスト・フォーラム等を通じて多くの個人投資家の方々から「株主視点」でのご意見をいただいており、このような声を企業に連携しています。ご意見はかなりの数のご意見をお寄せいただいており、その多くのご意見を拝見すると、上記の昌幸の「最後の勝負の途中で事故が起こり・・・」の心境が頭に浮かぶものもあります。
多くのご意見は「株主還元を適切に実施しておらず、利益水準に対して株価が冴えない」、「せっかく優良な事業ポテンシャルがあるのに経営陣がうまくそれを引き出せていない」、「低迷する株価に対して、無策」というようなもので、ご意見をくださった個人投資家の方々は詳細に企業分析を行い、投資判断されていることが分かります。また、次回は個人投資家の「株主視点」での具体的なご意見について、みていきたいと思います。