8月3日付の記事では不動産会社の保有不動産の含み益について取り上げました。その中で取り上げた「中小型の不動産会社の賃貸等不動産の状況」で特に含み益が目立ったのはテーオーシー(8841)です。同社はアクティビストの文脈でも出てくることの多い、いわば優良不動産保有会社の代表格です。

テーオーシーとニュー・オータニとの歴史的な深い関係

同社を代表する物件は五反田所在の、本社でもあるTOCビルでしょう。TOCビルはアパレルを中心としたテナントが200店舗以上入る超大規模なビルです。テーオーシーはもともと星製薬という製薬会社が発祥です。星製薬は大正期には大手製薬会社として知られていました。創業者の星一は現在も続く星薬科大学の母体となった学校を設立し、有名なSF作家である星新一氏の父としても知られています。しかし、第二次世界大戦後、星製薬は苦境に陥り、ホテルニューオータニ創業者である大谷米太郎が救済します。その後、星製薬の工場跡地に上記の五反田のTOCビルを建設しました。そして、「TOC」の名前の由来である「東京卸売りセンター」と星製薬は合併し、現在のテーオーシーに至ります。

このような経緯から、テーオーシーはニュー・オータニなど大谷家のグループ会社や資産管理会社が大株主に名を連ねているのです。テーオーシーは五反田のTOCビルなどの安定した収益を元に浅草にROXビルを建設しています。ROXは現在もTOCが運営するスーパー銭湯やスーパー、大型の回転寿司店などが入るショッピングビルです。五反田・浅草にはTOCビル、ROXビルを軸に複数のビルを展開しています。さらに、TOCは有明、みなとみらいなどにもビルを開発し、いずれも安定した収益を維持しています。ちなみにテーオーシーの株主優待はROXのスーパー銭湯の入場券や祖業である星製薬の製品から選択できるようになっています。

2017年には保有しているTOCみなとみらい(売却後はヒューリックみなとみらい)を不動産大手のヒューリック(3003)に売却しました。帳簿価額364億円のビルでしたが、売却額は665億円で、実に300億円近い譲渡益が発生しています。テーオーシーは現在も五反田を中心に両国、大崎、赤坂などに土地を有しており、有価証券報告書によれば第2TOCビルの面積は1,600平米を超える一方、簿価は14百万円と相当な含みがあることが見て取れます。現在の同社の時価総額は600億円を少し超える水準でPBRは0.87倍と簿価よりも安い水準にとどまっています。

テーオーシーはMBO失敗などを経て安定株主作りに注力

これだけ有望な不動産資産を持ち、時価総額が高くないのであれば、その株を買い進めようという考えが出てきそうです。実際、リーマンショック前にテーオーシー株は注目を集めます。2007年4月に経営陣が買収(MBO)を図ったのです。しかし、その前に立ちはだかったのはテーオーシーの不動産資産に注目していた、不動産ファンド大手のダヴィンチ・アドバイザーズ(以下、ダヴィンチ)でした。ダヴィンチはMBOの価格を大きく上回る対抗TOBを実施し、テーオーシーのMBOは失敗に終わります。

さらにダヴィンチはそのTOB価格を引き上げ、テーオーシーの敵対的買収に挑みます。もともとMBOの価格は800円でしたが、ダヴィンチのTOB価格は1,308円と、MBO価格を実に60%も上回る水準でした。一転して防戦側になったテーオーシーの経営陣はニュー・オータニや大谷氏の資産管理会社がテーオーシー株を市場から買い増すなど、ダヴィンチに抗戦し、取引先なども味方に引き入れ、ダヴィンチのTOBを阻止しました。そして、ダヴィンチはテーオーシーの買収を諦めることになりました。

当時ダヴィンチのTOB価格1,308円に迫ったテーオーシー株はその後低迷し、リーマンショック後には268円、東日本大震災の頃には230円と売り込まれます。その後、アベノミクス相場などを追い風に1,100円を超える水準まで戻しますが、2007年の高値には達せず、現在の株価は600円前後に低迷し、先述の通り時価総額は600億円にとどまっています。

アクティビストのエフィッシモ・キャピタル・マネジメントが一時テーオーシー株を買い進め、16.74%まで保有していましたが、2017年にはテーオーシーの自社株買いに応じ、保有株の大部分を売却しています。もともと大谷家の保有が大きく、上記のダヴィンチのTOBで買い増したことなどもあり、なかなかターゲットにしにくいということなのかも知れません。一方で、一度ケチのついたMBOも実施しにくい状況ということでしょうか。

テーオーシーは直近で旗艦の五反田TOCビルの建て替えの具体的な内容を発表しています。現在、地下3階、地上13階の同ビルは、地下3階、地上30階と大型化します。東京都庁が議事堂なども合わせ延床面積38万平米、六本木ヒルズ森タワーも37.9万平米ですが、新TOCビルは27.6万平米となる予定で、その大きさが分かるかと思います。一方、優待制度を拡充、記念優待の実施なども行っており、安定株主作りを意識しているように思います。これまでの経緯を考えても興味深い投資先のように見えます。

不動産資産を保有する意外な企業とは

さて、テーオーシーはもともとの星製薬の跡地を活かして不動産会社として成長したという説明をしました。実はそのような企業は少なくありません。不動産会社に限らず、そのような資産を保有する企業をご紹介していきましょう。

片倉工業(3001)は繊維会社ですが、現在は工場跡地などを中心とする不動産賃貸が利益の中心になっています。代表的な物件は、さいたま新都心駅直結のコクーンシティという大型のショッピングモールです。その他にも全国各地にショッピングモールを保有しています。グンゼ(3002)も兵庫県尼崎市にある商業施設「つかしん」などショッピングモール開発を行っています。岩崎通信機(6704)も都内にオフィスなどの賃貸資産を保有しています。東北特殊鋼(5484)は仙台にショッピングモールを保有しており、そこからの収益が大きい企業です。石井鉄工所(6362)も都内の工場跡地に住宅を開発し、その家賃収入が利益の柱になっています。また、サイボー(3123)は埼玉県川口市にショッピングモールを有し、土地の活用に力を入れています。

意外な不動産保有者としてテレビ局も挙げられます。テレビ局は自社や放送施設跡地など不動産資産を多く保有しているのです。日本テレビホールディングス(9404)は汐留や千代田区番町に不動産を有しています。TBSホールディングス(9401)は特に赤坂の土地における不動産資産が大きくなっています。現在も再開発を進めています。フジ・メディア・ホールディングス(4676)はやや特殊で、もともとグループ会社にサンケイビルという不動産会社を有しており、同社を完全子会社化した結果、東京大手町のサンケイビルをはじめ、多くの不動産資産を有している状況です。

これらの企業の不動産保有状況を以下の図表にまとめてみました。含み益の水準などからすると、8月3日付の記事で紹介した不動産会社よりむしろ保有内容が良いことに気づかれるかと思います。この他にも不動産など資産株は数多くあります。

今回は有価証券報告書で確認しやすい賃貸不動産を保有しているものを取り上げましたが、賃貸不動産になっていない工場跡地などを持っている企業も少なくありません。また、倉庫会社は事業の性質上、優良な賃貸物件を多数保有していますが、社名を挙げなくてもイメージがつきやすいと思いますので、今回の記事からは割愛しました。

【図表】不動産会社以外の賃貸不動産保有会社
出所:有価証券報告書をもとに筆者作成