今回の記事では、企業とのエンゲージメント(対話)を積極的に行っているアクティビスト「ひびき・パース・アドバイザーズ(以下、ひびき)」の特徴と運用方針について解説したいと思います。

中小型ファンドへの運用資産を拡大

ひびきはシンガポールに拠点を置くアクティビストで、2016年3月に営業を開始しました。ベンジャミン・グレアム氏やウォーレン・バフェット氏で知られるバリュー投資の手法を適用し、経営陣との対話(エンゲージメント)を重視しています。

同社は、日本の中小型株にも注目しています。日本の中小型株は、アナリストがあまり分析対象とせず、割安に放置されている銘柄が多いからです。有望な中小型株に投資すれば、超過収益が期待できると考えている海外投資家も多く、資金力を高めている中小型株ファンドも増えています。

ひびきは対話を通じてコーポレートガバナンス(企業統治)の改善を推進しています。2020年12月18日付の日本経済新聞の記事によると、同社は中小型株ファンドの運用資産額を500億円弱(3年で5倍)に拡大しており、同社の清水雄也社長は「(中小型株の企業は)コーポレートガバナンスの水準や投下資本利益率(ROIC)への意識が低いが、長期目線で改善を待てば高い株価リターンが得られると顧客から期待されている」と述べています。

知的財産(IP)の価値を数値化

PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった、株価指標では見極められない企業価値をどのように判断するかは、投資における大切なポイントです。そこで、ひびきは知的財産(IP)の価値を数値化しています。IPとは、人の精神的な想像行動から生まれた創作物や、営業上の信用を表した標識など、経済的な価値を持つモノの総称です。法律上の権利としては、特許権や著作権、商標権などがあります。

ひびきは、各IPの20年以上にわたる毎年のキャッシュフローを見積って現在価値に割り引き、無形資産として評価しています。例えば、同社が投資しているIGポート(3791)は、「進撃の巨人」など約20のIPを保有しています。長期的にヒットするアニメ作品に集中して投資して知的財産(IP)を育てれば、続編を継続して制作したり、劇場版やスピンオフ作品を制作したりして、潤沢なキャッシュフローを継続的に得られる可能性があるからです。

経営陣の年齢が若い企業にも投資

ひびきは、経営陣の若返りを進めている企業にも積極的に投資しています。若い人材の登用により企業体質が変わり、業績が伸びると考えているからです。

2020年12月7日付の日本経済新聞の記事によると、「ひびきは中長期の目線で約30銘柄に投資し、経営陣との対話によるエンゲージメントを重視する」とのことです。また、同記事で清水社長は、「日本企業全体のコーポレートガバナンスの水準はいまだ低いが、改善すれば株主価値の向上が期待できる」と述べています。

また同記事によると、「(ひびきが)足元で買いを入れるのが、電子部品向けめっき薬品が世界首位の日本高純度化学だ。判断の決め手としたのは、経営企画部長を務めていた小島智敬氏(48)が6月に取締役に抜てきされたことだ。」とのことで、70~80代の取締役が多い中、若い人材が入ったことで、経営改善が期待できると考えているようです。

「Hibiki Investment News」の運営開始

ひびきは、2021年3月から投資先やエンゲージメント活動を紹介するウェブサイト「Hibiki Investment News」の運営を始めています。同社はプレスリリースで同サイトを立ち上げた目的として、「私たちが残念に思うことは、日本には数多くの素晴らしい企業が多くあるのに、それに多くの人が気付いていないことです。そういった企業を是非、もっともっと多くの人に知っていただき、応援したいとの強い想いから、このサイトを立ち上げました」と述べています。同サイトでは、同社が投資している企業の魅力について紹介しており、どのようなエンゲージメント活動をしているのかについても書かれています。

ひびきは情報開示にも積極的

ひびきは投資先企業やエンゲージメント活動をどのように行っているのかを公開しているので、同社の運用パフォーマンスがどの程度なのかを確認できます。通常、アクティブファンドは公募投信と異なり、運用パフォーマンスが公表されることはありません。

大量保有報告書を提出した銘柄に限り、5%を超えた時点での平均買いコストを計算し、5%未満になった時に売却したと考えて売却益を計算します。ひびきは株価が冴えないバリュー株に投資するので、一時的には投資パフォーマンスが悪いイメージを持たれることもありますが、長期投資してエンゲージメントを行うので、パフォーマンスは印象よりも良いと考えられます。

通常、アクティビストが投資している銘柄を外部から知るのは5%超の大量保有だけですが、ひびきは投資先企業についての詳細を公開しているので、情報開示に積極的なアクティビストと言えるでしょう。今後、同社がどのような企業に投資するのかに注目したいところです。