先週の振り返りと今後の注目点
先週の米ドル/円は一時109円割れまで続落したものの、週末には110円台を回復しての引けとなりました。この米ドル/円の推移は、日米金利差とほぼ連動したものでした(図表1参照)。
日米金利差の主役は米金利です。その米金利、たとえば米10年債利回りは一時1.2%を大きく割り込んだものの、週末には注目された米7月雇用統計が予想より良い結果だったことをきっかけに1.3%程度まで反発しました(図表2参照)。
この米10年債利回りを90日MA(移動平均線)からのかい離率でみると、一時はマイナス20%以上に拡大しました(図表3参照)。これは、経験的には「下がり過ぎ」懸念が強いことを示すものでした。
以上のように見ると、米金利の「下がり過ぎ」懸念が強い中で、注目された米雇用統計が予想を上回る結果だったことから、それをきっかけに「下がり過ぎ」の修正により米金利は上昇、米ドル/円はそれに連れたというのが、先週の米ドル/円の基本的な構図だったでしょう。
では、この先についてはどのように考えたら良いでしょうか。米ドル/円は1月から上昇トレンドが展開した中で安値と安値を結んだトレンドラインを、7月以降大きく割り込みました(図表4参照)。このため、111円を上回るなどにより、トレンドラインを回復するまでは、チャート的には下落リスクがくすぶる状況が続く可能性があります。
これまで見てきたように、米ドル/円は日米金利差と高い相関関係が続いてきました。この関係がこの先も続くなら、111円を回復し、米ドル高トレンドに戻れるか、それともなお米ドル下落再燃に向かうかは、米金利を主役とした日米金利差次第ということになるでしょう。
7月雇用統計の意味を考える
ところで、6日発表された米7月雇用統計で、注目されたNFP(非農業部門雇用者数)、失業率はともに予想より良い結果となりました。とくに失業率は6月の5.9%から5.4%へ大幅な低下となりました。失業率の過去10年平均が5.9%なので、それを大幅に下回ることになったのです。
私は以前より、失業率と米金融政策の関係性に注意を払ってきました。その上で、とくに失業率が過去10年平均を下回るかに注目してきました。なぜなら、いわゆる「リーマン・ショック」の世界的経済危機に対して行われた金融緩和の見直し第一弾と位置付けられる米国の緩和縮小、いわゆる「テーパリング」がまさに失業率が過去10年平均を下回るまで改善した後に開始されたということがあったためでした(図表5参照)。
その意味では、今回発表された7月失業率が、過去10年の平均値である5.9%を大幅に下回る5.4%となったことは、上述の「リーマン・ショック」後の経験を参考にすると、すでに「テーパリング」はいつ始まってもおかしくない状況になっている可能性を示しているかもしれません。
ちなみに、6月FOMC(米連邦公開市場委員会)で公表された失業率の見通しでは、2021年の年末には4.5%まで低下するとされていました。その意味では、FOMC内では、今回発表された7月の5.4%から、年末にかけてはさらに一段と失業率が大幅に低下するといったことがメイン・シナリオになっているのではないでしょうか。
先週、そんなFOMCの複数のメンバーが、年末年始からの「テーパリング」開始に言及しました。以上のように見ると、このまま失業率の低下が続くようなら、「テーパリング」の早期開始がいよいよ現実味を増してくるのではないでしょうか。
今週は、CPI(消費者物価指数)やPPI(生産者物価指数)など物価統計の発表が予定されています。このようなインフレ指標の動向も、米金融緩和見直しのもう1つの鍵を握る目安となります。
米金融緩和見直しは、少なくとも金融政策を反映する米2年債利回りにおいては上昇要因です。「リーマン・ショック」後も、「テーパリング」開始が現実味を増す中で、米2年債利回りは、ゼロ金利政策の誘導目標上限の0.25%を大きく上回る動きとなりました。
6月FOMC以降の米ドル/円は日米2年債利回り差とも高い相関関係となっていることから、「テーパリング」開始が現実味を増し、米2年債利回りが上昇に向かうようなら、それは米ドル/円の上昇要因になるでしょう(図表6参照)。
そういった中で、111円を回復、米ドル高のトレンドに戻ると、テクニカルにも米ドル高の余地は広がりやすくなりそうです。ただ111円以下で推移している中では、テクニカルには米ドル下落リスクが残っていることも頭に入れておく必要があるでしょう。