5Gインフラを支える次世代の化合物半導体
産業界を含めた世の中のデジタル化が急速に広がるとともに、私たちの身の回りのデータ量は膨張し、5G(次世代通信規格)などデータ通信のインフラ整備が急務となっています。5Gは現行の4G LTE通信に比べて、高速通信や同時多接続が可能で、遅延も少ないのが特徴です。スマートフォンなど個人利用だけでなく、信頼性の担保が求められる法人向けでも利用が期待されています。
5Gを含めたテクノロジーの進化でVR(仮想現実)やEC (電子商取引)、自動運転、ドローン、ロボティクス、ヘルスケア、農業など幅広い分野で効率化や新たな付加価値の創造が進むと予想されます。無線の技術開発の遅れなどもあり、ひところに比べ5G関連株への人気はトーンダウンしていますが、通信ネットワークの高性能化は喫緊の課題です。通信インフラへの投資が後退することはないでしょう。化合物半導体は5Gインフラの整備を支える存在として今後も需要が増していく公算が大です。
各国で5Gインフラ整備が加速
スウェーデンの大手通信機器メーカーであるエクリソンの「Ericsson Mobility Report June 2021」によると、世界のモバイル・ブロードバンド通信の契約件数は現在約80億件で2026年には88億件に達すると予想されます。2021年4月の菅首相とバイデン米大統領の日米首脳会談では、5Gとさらに次世代の6Gの技術開発のために日米で45億ドルを投資することで合意しました。
日本では2020年6月に総務省が「Beyond 5G推進戦略」をスタートさせ、各通信キャリアによる5Gのインフラ整備が進められています。米国においてもバイデン米政権が推進する約2兆ドルのインフラ投資計画で国内の光ブロードバンドネットワークの整備や5G無線通信への投資が盛り込まれました。
5Gインフラの整備で世界をリードするのは中国です。中国では5Gが政府・共産党の推進するハイテク技術振興策「中国製造2025」の重点項目となっており、5Gインフラの整備が急ピッチで進められています。JETRO(日本貿易振興機構)のビジネス短信によると2021年3月末時点で中国の5G基地局は81万9000カ所を超え、世界の7割以上を占めています。
ファーウェイ(華為技術)など中国のスマートフォンメーカーは150ドル~200ドル以下の低価格5G端末のラインナップを充実させています。現状の4G LTEネットワークが日米に比べて普及していない地域が多いことも、他国に比べて5Gへの移行が加速している背景にあります。
5Gインフラ関連の米アメリカン・タワー、JTOWER、協和エクシオ、アンリツ
米アメリカン・タワー(AMT)は携帯移動通信の電波塔などを所有し、貸し出すことで賃料を得るREIT(不動産投資信託)です。株価は年初来で3割近く上昇しています。通信インフラへの需要増や低金利を背景に過去最高値圏で堅調です。
日本の関連銘柄の株価は苦戦が目立ちます。国内外で大型施設内の通信インフラを携帯キャリアに提供するJTOWER(4485)は年初来で約半値に低迷しています。東証マザーズ指数が冴えないこともあり、戻りの鈍い展開が続いています。5Gではミリ波など従来よりも遠くに飛びにくい高周波の電波が用いられるため、基地局の効率的な敷設やシェアリングがポイントになります。日足チャート上では調整十分とみられるため反騰に期待したいところです。
NTT向けの電気通信設備工事を手掛ける協和エクシオ(1951)の株価も年初来の水準を下回っています。新型コロナウイルス感染拡大の影響で設備工事の進捗が遅れていた面もあり、ワクチン接種の進展に伴う経済正常化で再度物色が期待されます。
通信計測器の世界大手アンリツ(6754)も年初来の株価水準を約1割下回っています。2021年にかけてスマートフォンメーカーによる高周波のミリ波向け計測器の受注増が株価動向を左右しそうです。