経営が混乱している中でも東芝株が安定しているワケ

東芝(6502)の株主総会では取締役会議長であった候補が賛成率43.74%で否決され、代表執行役社長の賛成率も77.39%と、会社側提案の取締役候補が選任されない波乱の結果でした。否決された前取締役会議長は株主に対し、オープンレターという形式でメッセージを送っています。その中で注目すべき点は「当社及び従業員に対して大いなる可能性を感じております」という点でした。事実、東芝株はこのような経営の混乱の中でも5年来の高値水準にあり、安値だった2017年頃から見ると、倍以上に値上がりしています。直近の高値は4月の4,975円ですが、上記総会を経た6月28日終値でも4,890円とほとんど下がっていない状況です。

東芝の業績は傍目には苦しく、2015年3月期から3期連続で赤字決算を出しており、2015年3月期からの7期ですと最終赤字が4期と最終黒字を上回ります。また、直近の営業利益も1000億円を超える水準で、過去の2000億円を超える営業利益だった水準から見ると寂しい水準です。競合の日立(6501)や三菱電機(6503)が黒字を続けているのを見ると厳しい状況です。しかし、この2年間の3社の株価を見ると、実は東芝の成績は悪くないのです。

【図表】日立(赤)、東芝(青)、三菱電機(緑)の2年間比較チャート
出所:マネックス証券

業績の悪化が続いており、バランスシートが傷んでいる中でも東芝株の評価が安定しているのは、今後、東芝のポテンシャルが発揮されると期待されているためでしょう。東芝に投資するアクティビストがその力になると思われているようです。東芝のポテンシャルは前議長も上述のレターで書いている通り、人材によるところが大きいと思います。さらに何だかんだいっても、東芝のブランド力もあるように思います。これだけ経営が混乱していても、東芝のエレベーターに不安を覚えることはないでしょうし、身近な例ですと東芝の家電は安心感があるように思います。

人材、ブランド力、そして販路(顧客リストや店舗)は決算書に表れにくい企業のポテンシャルと言えます。人材は製造業であれば技術、商業などであれば販売力の基盤となるものです。

スシロー、コメダ、すかいらーくの共通点とは?

ここでタイトルに戻ります。スシロー、コメダ、すかいらーくの共通点はファンドが多くの投資を行って上場(スシローとすかいらーくは再上場)を果たした企業だということです。これらのファンドは一般的にアクティビストファンドではなく、企業を買収して経営の改善・立て直しを図り、より価値をあげて売却するバイアウトファンドと呼ばれるようなものです。しかし、企業のポテンシャルを見抜き、その実現により企業の価値を向上しようという点ではアクティビストファンドと本質的に同じ活動を行っていると言えるでしょう。

バイアウトファンドの場合、通常投資先の過半の株式を取得するのでリスクは小さくありません。スシロー、コメダ、すかいらーくは一部紆余曲折もありますが、各社上場には至ったので一定の成功を果たしたと言ってもよさそうです。特にスシローは社名をFOOD&LIFE COMPANIES(3563)に変えていますが、上場時の5倍程度まで株価が上がっており、大成功と言えるでしょう。それでは、ファンドは各社のどこにポテンシャルを見出したのでしょうか。

ファンドが特に重視する企業のブランド力

ファンドが投資を成功させるためには、投資時点よりも投資先の業績が良くなっている必要があります。そのために重要なのが、先述した決算書に表れにくい人材・ブランド力・販路など、企業のポテンシャルです。

特に3社のような飲食業の場合、ブランド力は特に重要です。個人客を対象としている場合、多くの個人は支出の際にそこまで吟味はしないでしょう。少なくとも最初のフィルタリングはブランドで行うことが少なくないと思います。特に口にするようなものの場合、無名なメーカーやお店は避けたいと思うのが普通だと思います。その点で、スシロー・コメダ・すかいらーくは有力なブランドです。すかいらーくは「ガスト」も重要なブランドだと思われます。

米著名投資ウォーレン・バフェット氏がコカ・コーラや髭剃りのジレット、アメリカンエクスプレス、ウェルズ・ファーゴなどに投資している(していた)ことはよく知られています。これらの企業も個人に対し強力なブランドを有する企業です。そして、日々口にするものや肌に当てるもの、カード会社・銀行というのはまさに安心のブランドが求められるということは想像に難くありません。バフェット氏は競争に対して強固な企業を好むと言われますが、個人へのブランドはそのような強固な差別化(利益の源泉)であると言って良さそうです。

おそらくファンドはそのようなブランド力をポテンシャルとし、経営を改善することで企業の価値を高められると踏んだのだろうと思います。さて、そのようなアイディアを実際の投資に活かせないでしょうか。本連載では、親子上場の解消に投資機会があるという話をしてきました。

●セコムなど相次ぐ子会社の公開買付(TOB)、今後注目の企業は?(2021年6月1日)

個人向けに高いブランド力を誇る企業は?

今回の話も合わせて考えますと、個人向けの強いブランド力を持つ企業は、とりわけ買収や経営統合の対象になりそうです。親会社が外部の投資家としても安心して投資ができ、かつポテンシャルも期待できるということです。そこで、今回は特定の企業が一定程度の株式を持っている企業で、個人向けにブランド力のありそうな企業を見てみたいと思います。

まずはスシローなどにならって飲食業を見ていきたいところですが、飲食業はご存知のように現在かなり業績不振の状況です。ただ、以前の記事で取り上げたようなハウス食品(2810)が50.9%を出資している壱番屋(7630)があります。他にも高級レストランで知られるうかい(7621)には京王電鉄(9008)が10%強を出資しています。同じく業績不振ではありますが、阪急百貨店、阪神百貨店のH2Oリテイリング(8242)は阪神電鉄や阪急阪神HD(9042)が出資しており、近鉄グループHD(9041)傘下の近鉄百貨店(8244)も同様に注目できそうです。

伊藤忠商事(8001)によるファミリーマートへの公開買付が行われたコンビニ業界も注目できるでしょう。ローソン(2651)は三菱商事(8058)が50%を出資しています。ローソンはブランドももちろんですが、店舗網(販路)も注目できます。6月上旬には中堅コンビニのポプラ(7601)、スリーエフ(7544)が大きく買われる場面がありました。両社はローソンと提携しています。

ファミリーマートがサークルKサンクスと合併したことで、国内店舗数はファミリーマートが17,000店舗近く、ローソンの14,000店舗強を上回っています。なお、セブンイレブンは21,000店舗を超えています。ローソンに次ぐのがミニストップ(9946)ですが、2,000店舗に満たないので、3強の価値がよく分かります。ミニストップはイオン(8267)がグループで50%以上出資しており、こちらも注目できるかも知れません。コンビニ関連でいうとセブン&アイ(3382)グループのセブン銀行(8410)も上場しています。

ここまでは主に小売店を見てきました。食品や日用品でも同様の企業があります。次回はそちらを見ていきましょう。