英国のEU離脱支持の国民投票は、経済合理性が国民感情に敗北したという事実に加え、残留多数を示していた出口調査が裏切られたことが、市場に衝撃を与えました。調査を行ったユーガブは、はずしてしまった理由を「特に北部の投票率が前回の国政選挙を上回ったため」と説明しています。

こうしたサンプル調査では、ごく少数のアンケートで結果を推定します。その統計的な正しさは、お味噌汁の味見にたとえられます。味見をするのに、お椀一杯を飲む必要はなく、小さじ一杯分程度をなめるので充分です。

しかし、これが正しいのは、お味噌が全体に撹拌(かくはん)されている場合だけです。今回の英国の例では、地域の偏りが大きく、また、一部の悪天候も想定外だったため、わずかな"味見"だけでは全体の塩加減がわからなかったというわけです。また、ユーガブは反論していますが、ネット調査の対象者の偏りの問題もあると思われます。

近年は、こうしたサンプル調査の欠点を補うため、さまざまな分野でビッグデータの活用が検討され始めました。日本の家計調査などもその例です。しかし、データがビッグになっても、例えばポイントカードの利用歴を使えば若年層に偏りそうですし、捕捉されたくない物の購入にはカードを提示しないので負のバイアスがかかりそうです。いずれにしても、完璧なデータを得るのは簡単ではない気がします。

折しも、来月の参院選では、国政選挙としては初めて18歳と19歳の若者が投票権を得ます。人数は全国合計で240万人、有権者の2%程度なので大きくはありません。しかし、これまで充分こなれていた味噌汁に突如"異物"が混入するわけで、少量とはいえどんな化学反応を起こすのかは未知数です。

今回の英国の事例ほど極端ではないにせよ、いつもよりは不確実性が高い今回の参院選。事前予想は、データを参照しつつも、合理的に疑うことが求められそうです。

マネックス証券 チーフ・アナリスト 大槻 奈那