前回の記事「個人投資家は株主総会に影響を与えられる?」では、議決権行使の重要性と、個々で見ると影響力の小さい個人投資家であっても議決権行使によってインパクトを与えられるケースをご紹介しました。

議決権行使の手続きは簡単!

なかでも注目すべきは、個人投資家の議決権行使比率が低いことです。「議決権行使はちょっと面倒」と考えられている方も多いかもしれません。しかし、実際には議決権行使の手続き自体は非常に簡単です。

例えば従来の議決権行使の手段としてハガキの郵送があります。通常、株主総会開催の1ヶ月前くらいに株主総会の参加を案内する書面が送られてきます。その中には、実際に株主総会に参加する場合の案内に合わせ、経営状態の報告と株主総会の議案の内容を記載する招集通知が含まれます。その議案の賛否を判断して、同封の議決権行使書に賛否を記入し、あとはそのハガキを投函するだけです。最近は個人情報の保護シールを貼るなどの手間もありますが、筆者は貼らずに投函しています。通常、未記入の場合は賛成扱いになるので、すべての議案に賛成する場合は、議決権行使書を届いたままポストに入れるだけで行使が完了します。

また、最近ではスマートフォンを使うことで、より簡単に議決権行使ができる企業も増えています。同封のQRコードをスマートフォンで読み込めば、特にIDやパスワードなどの入力の必要もなく、議決権行使が行えます。(詳しくは以下の記事をご覧ください)

●スマートフォンでお気軽に、ますます手軽になる議決権行使(2020年6月15日)

議決権行使の考え方とは?

さて、議決権行使自体は簡単だとお伝えしましたが、実際にどのような考え方を基準に議決権を行使するか、というのが難しいところでしょう。例えば、マネックスが提供しているアクティビストファンド「マネックス・アクティビスト・ファンド」へ運用助言するカタリスト投資顧問は「議決権行使についての考え方」を公表しています。(※)

その中で、直近のコーポレートガバナンス・コードの求める、取締役会の多様性(独立社外取締役を含む)や少数株主配慮などをベースに以下のような考え方を掲げています。

(1)取締役会の構成(多様性、独立性の確保、筆頭独立社外取締役の選定)
(2)買収防衛策(原則反対(導入・更新に原則反対、廃止に原則賛成))
(3)企業のサステナビリティ(ESG 要素を含む中長期的な持続可能性)への対応

(1)は取締役会の構成について、多様性・独立性の確保などの観点から議案を評価し、評価できない場合は(取締役会の)指名委員会委員長か経営トップの取締役会選任議案に原則として反対するとのことです。(2)は買収防衛策に原則反対し、買収防衛策が存在する会社の取締役の再任議案には原則反対するというもの、(3)はサステナビリティ対応が評価できない場合、担当取締役あるいは経営トップの選任議案に原則として反対するというものです。

各議案の評価自体は簡単ではなさそうです。一方で、内容をひも解くと、議案への対応は大きく分けて2つしかないことが分かります。

・取締役選任議案に反対すること
・買収防衛策の導入に反対すること

これは個人投資家の議決権行使の判断にも応用できるように思います。個人投資家の場合、時間が十分にあるわけでもないことから、各会社の取締役の評価、細かい経営施策の評価は簡単ではないと思います。一方、投資先の企業の株主還元や株価水準、株価水準に対する企業の対応などの評価は判断できるのではないでしょうか。その評価が良い場合は全取締役の再任議案に賛成し、そうでない場合は反対するのが簡単な判断のように思います。また、買収防衛策については原則反対ということで簡単に判断できます。

まずは、声をあげることが大事

言うまでもなく、カタリスト投資顧問の議決権行使の考え方が絶対というわけではありません。しかしながら、会社の重要な決定は取締役会が行ない(一部の決定は株主総会に諮られますが、その議案も基本的には取締役会が決定することが通常です)、その取締役会の構成メンバーの決定権があるのが株主総会であるという立て付けを考えると、株主は取締役の選任議案に注目するという方法は分かりやすいように思います。また、買収防衛策はほとんどの場合、株主、特に個人株主にはメリットがないものでしょうから、原則反対で良さそうに思います。

むしろ、上記のような個人投資家のざっくりとした経営への評価で取締役の選任の賛否を決めることは、まさに多様な株主の意見が反映されるということで良さそうに思います。もちろん、より詳細に議案の吟味が可能な個人投資家の方は吟味されると良いでしょう。ただ、個人投資家の議決権行使率が上がることは、それだけで企業の牽制にもなり、結果的に企業の保有者の1人である個人投資家にも益のあることです。まずは声をあげることが大事です。

もちろん、声をあげても変わらなそうな企業もあると思います。しかし、国や居住都道府県と違い、投資先を比較的容易に変えられるのも個人投資家の強みです。ダメな企業に投資し続けることはないですし、変わりうる企業には声をあげる、というのが投資家の態度ではないでしょうか。もちろん、経営に不満で声をあげたい!というときにはすでに残高の損益が赤くなっていて、売るに売れない…という状況に陥っていることも少なくないのですが。

(※)「マネックス・アクティビスト・ファンド(公募投信)における議決権行使の考え方について」を参照。
https://www.japancatalyst.com/pdf/MAF_ApproachToProxyVoting20210420.pdf