みなさん、こんにちは。結局のところ、セルインメイ(Sell in May)の相場格言通り、ここにきて日経平均は大幅な調整となりました。

きっかけは米国における金利上昇懸念でしたが、それだけ景気には過熱感が生じてきているということなのでしょう。コロナワクチンの接種浸透に加え、ウッドショックや宝飾品など高額商品の好調などそういった懸念を裏付ける様々な事象が続々と発生しています。

日本でも、ワクチン接種には遅れが目立つものの、大きな流れとしては世界の動向と同じであろうと考えます。企業においてはスリムになったコスト構造を背景に、強気の業績見通しが相次いでいます。しばらく続いたボックス相場では一旦レンジの下限にヒットという反応となりましたが、変化の兆しは確かに出てきたのではないかと私は捉えています。

米国で勢いづくSPACの動き

さて、今回は「SPAC(特別買収目的会社)」をテーマに採り上げてみたいと思います。

最近はメディアでも採り上げられることが多い言葉なので、ご存知の方も少なくないでしょう。SPACはれっきとした会社ではあるのですが、買収そのものを目的とした会社であり、事業を自ら行うことはありません。

しかし、買収によりその会社と一体化(多くは被買収企業を存続会社とする合併)することで事業会社に鞍替えするという、米国で近年市場の注目を集めていた会社形態の1つです。

ポイントは、このSPACは上場企業であり、上場の際に集めた資金を買収の元手とするというスキームにあります。そして、SPACが被買収会社と合併すると、その被買収会社(事実上の存続会社)が上場企業になっているという仕組みです。当然、SPACの株主はその時点で事業会社の株主になっているというわけです。

SPACが「空箱」と揶揄されるのは、このためです。そのSPACの上場は、これまで急拡大をしてきました。2013年には10社だったものが、2019年には59社に拡大し、2020年には248社が上場を果たしています。そして、2021年は3月の時点で既に2020年の上場SPAC社数を超える水準にまで到達し、2013年からの累計では700社を越えていたのです。

しかし、4月のSPAC上場はわずか13社と急ブレーキがかかります。これはSPACの乱立で被買収企業のクオリティ低下への懸念が高まり、米証券取引委員会(SEC)の監視が強化されたためと言われています。

確かに、SPACの買収する企業は未公開企業であるために、財務や将来見通しという点で投資家(=SPACの株主)からはかなり不透明な部分が否めません。本来はSPAC設立者がそれを補う「目利き」の役目をすることでバランスをとる仕組みになっていたのです。

とは言え、いかに「目利き」としての実績があろうと、それが将来を約束するものではありません。また、常にダイヤモンドの原石を見つけ出せるとも限りません。700社を越えるSPACが有望な被買収企業の発掘に向かう中、成果を急ぐために、上場企業のクオリティに満たない企業を買収してしまうというケースも少なからず発生していたと言えるでしょう。

SECが規制強化に入るまでは、米国での人気を見て日本でもSPACが早々に解禁されるのでは、との観測もありましたが、早期実現の可能性については慎重に捉えておいた方が良いのかもしれません。

SPACの魅力とは

しかしながら、SPACの仕組みそのものについては面白いものがあります。

そもそもSPACは、未公開株投資と投資信託の両方の特性を持つ金融商品と言えます。一般的に未公開株は、株式公開をすることで流動性が増し、大きく企業価値を引き上げる傾向があります。しかし、機関投資家でない以上、未公開株への投資機会は極めて限定されており、一般投資家には手の出ない領域となっていました。

SPACはそういった投資家層への未公開株投資を実質的に実現させているのです。しかも、「目利き」による折り紙付きの未公開企業を、です。目利きに投資を任せるというのはまさに投資信託と同じ構図と言えるでしょう。

もちろん、投資信託はプロのファンドマネージャーによって日々ポートフォリオの入れ替えが可能であるのに対し、SPACは被買収企業をそんなに簡単に入れ替えたりすることはできません。そういう観点からは、SPACは投資信託に比べてリスクが大きい商品と言え、だからこそ、リターンもまた大きなものが期待できるという構造にあるということなのです。

これをもって、SECの規制強化からSPACがカネ余り時代に咲いた「仇花」と決めつけてしまうことは避けたいところです。

リスクを許容できる投資家にとってはSPACも十分魅力的な投資先でしょう。、また未公開企業からしても、新規上場には長く厳しい審査をクリアする必要があるのですが、SPACに買収されれば短期間で必然的に上場企業となることが可能です。

SPACの設立者から見ても、自身の目利き能力を付加価値として資金調達することで、より有望かつ大規模な未公開企業の買収資金を確保することができるのです。

まだまだ解決しなければいけない問題が多々あることは間違いないのでしょうが、SPACは見事に関係者全員にメリットを提供できるスキームにもなっていると言わざるを得ません。おそらくは今後、改善が進み、より洗練された金融商品として市場に認知されてくるのではないかと予想します。