日本ではゴールデンウィークの真っ只中の5月1日、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイの年次株主総会が行われました。2020年はコロナ禍の影響により、バークシャーの本社がある米ネブラスカ州オマハからオンラインで開催されました。同様に2021年の株主総会もオンライン開催となりましたが、バフェット氏の右腕であるチャーリー・マンガー氏も地元、ロサンゼルスのホテルから中継で参加しました。

会場のステージには、90歳のバフェット氏の隣には97歳のチャーリー・マンガー氏、加えて2人のバークシャーの副会長も並び、適宜説明する形式で進行されました。

毎回参加していて思うのですが、超ご高齢のお二人が4時間以上の話を休憩なく話続けるのは大したものです。私も2時間半以上のセミナーを毎月1回開催していますが、それでも結構大変です。90歳を過ぎたお二人が休憩も入れず、4時間の総会を行う精神力やエネルギーは素晴らしいものです。

この総会の生放送で観て、私なりに興味深いと思った箇所を取り上げてみたいと思います。

米国型資本主義が世界的に成功を収めている

株主総会のオープニングでは、今回も米国の強さ、資本主義の素晴らしさを語りました。話は1790年に遡ります。1790年の米国の人口は世界の人口の0.5%でしかありませんでした。アイルランドよりも少なく、ロシアは米国の5倍、ウクライナも2倍の人口でしたが、232年経った今、世界のトップ6の企業(アップル、サウジアラムコ、マイクロソフト、アマゾン、アルファベット、フェイスブック)のうち5社が米国企業になっていることを説明し、米国企業の凄さと、米国型資本主義が世界的に成功を収めていることを強調しました。

航空会社への投資、その後の売却のタイミングは間違いだったが…

航空会社4社の売却の過ちについて、バフェット氏は既にこれは自分が冒した間違いであったことを改めて認める発言をしています。

ただ、バークシャーが米国を代表する航空会社4社の株主でなかったので、これらの航空会社は政府の経済支援を受けることができたのではないかとの見方を披露しています。コロナ禍において、米国の航空会社は後に政府からの支援を受けていますが、もしバークシャーのような懐の深い企業が筆頭株主に含まれていたら、政府の支援を受けることは難しかったのではないかと語りました。

S&P500指数への投資について

バフェット氏は、事あるごとに強い米国経済への投資を勧め、その際にはS&P500指数への投資を勧めることを忘れません。今回もS&P500への投資を勧めています。実際バフェット氏は自分が「旅立った後」99%以上の資産は慈善事業へ寄付されることになっており、その残りを彼の妻が受け取るとしています。

バフェット氏はその90%をS&P500に投資をすれば良いと話します。たった1%以内ということですが、それでもバフェット氏の総資産は1037億ドル(1ドル=110円で換算すると約11兆4070億円)と言われていますので、妻の受け取りが1%だとしてもそれは約1140億円にもなります。火星へのプロジェクトでも立ち上げるのであれば話は別でしょうが、普通の人が相続するには十分過ぎる金額でしょう。その90%をS&P500に投資するとすれば約1027億円です。現在のS&P500の配当利回りは1.38%ですから、配当金だけで年間税引前で約14億円を受け取ることになります。

バフェット氏は、バークシャーは株主のお金をある程度うまく運用してきたと思うものの、株に詳しくない人や、バークシャーに対して特に想い入れがない人は、S&P500指数に投資をした方が良いと思うと答えています。同氏は今までS&P500指数への投資を勧めてきましたが、バークシャー株への投資を勧めたことは一度もないとしています。

注目の質疑応答セッション

他の投資家が恐れる時こそ、株を買う機会と言っていなかったか? 

質疑応答セッションで、バフェット氏に対し、投資家から「バフェットさんは、他の人が恐れる時こそが株を買う絶好の機会だと言っているのに、昨年3月の下げの時にはなぜ株を買わなかったのですか?」という質問が出ました。世界中のバフェットファンが聞きたい質問です。
 
バフェット氏は、この質問に答えるにあたって、当時の政府やFRB(米連邦準備制度理事会)の対応など当時の状況を詳しく説明したものの、質問に対して直接回答を避けたような印象を持ちました。長い説明をして答えるのを忘れたのか、意図的に避けたのかは不明です。

バフェット氏が言いたかったのは、結局2020年のような米国経済の突然の崩壊はバフェット氏にとっても想定外の事態であり、そのような局面ではバークシャーの事業の今後も想像できず、事業をリスクに晒す危険性もあったなか、現金を使うのを躊躇し、結局買うチャンスを逃してしまったということなのだと私は思います。 

一方、弁護士であるマンガー氏は端的に分かりやすく、次のように回答をしました-「今回のような常軌を逸した出来事が起きているタイミングの底で株を安く買うのは不可能です。それは誰かが間違った結果としてうまいタイミングで買うことはあるかもしれませんが。バークシャーにそれを求めるのは間違いです」。 

バイデン米大統領の法人税引き上げについて 

バイデン米大統領の法人税の引き上げについての質問に対し、バフェット氏は選挙ではバイデン米大統領に投票はしたものの、バークシャーの株主総会では米大統領の政策について個人的な意見は語りたくないと述べました。

その上で、法人税の引き上げは最終的に株主にとっては良くないものの、企業は上手に調整してくるので心配する必要はないだろう、としています。バフェット氏が社会人になった時、当時の法人税は50%以上であり、今よりずっと高かったと語りました。 

 自社株買いの是非についての見解 

バークシャーは2020年には247億ドル相当の自社株買いを行い、第1四半期も68億ドルの自社株買いを行っています。米国議会に自社株買いを批判する議員がいますが、その意見をどう思うかの質問に対してマンガー氏は、「株価を上げるための自社株買いは不道徳だが、株主のためになる自社株買いは深く道徳的であり、批判するのはクレイジーとしか言えない」と強く述べました。
 
一方、配当金の支払いについては、バークシャーは配当金を払う計画はなく、株主もそのことに納得しているとのことです。そういった方針を踏まえたうえでのバークシャー株への投資であり、そこを理解している投資家あってのバークシャーの株価なのだと思います。  

イーロン・マスクの火星プロジェクトに保険をかけるか?

架空の質問としてですが、イーロン・マスク氏率いるスペースX社の火星へのプロジェクトについて、バークシャーに保険かけてくれるかと頼まれたら何と答えるかとの質問が出ました。バークシャーの保険事業部門担当のアジット・ジャイン氏はこれに対し、「これは答えが簡単な質問ですね。ノーサンキューです。私はパスです」と即答をしました。その一方、バフェット氏は、「保険料次第ですね」、「宇宙船にイーロンが乗っているか否かで料金が違ってきますね」と笑って答えています。ジャイン氏は、「イーロンが保険引き受けビジネスの相手なら受けるのを躊躇しますね」と回答すると、そこですかさずバフェット氏は、「イーロンに直接私に電話するように言ってください」とユーモアを交えて返しました。 

今回の株主総会最大のニュースは?

今回の株主総会で分かった最も大きなニュースは、バフェット氏の後継者がはっきりしたことではないかと思います。これは株主総会でマンガー氏が口を滑らしたことで分かったのですが、現在副会長で資源部門の責任者であるグレッグ・エイベル氏がバフェット氏の後継者となるとのことです。もちろんバフェット氏は、引退するなど一言も言っていませんが。

バフェット氏は最後に「来年の株主総会はできればオマハでお会いしましょう」と述べて締めくくりました。次回の株主総会でもバフェット氏が大好きなコカ・コーラを飲みながら、元気な姿を見せてくれることを望みたいと思います。
 
※マネックス証券では、バークシャー・ハサウェイ クラスB(NYSE: BRK.B)の取扱いはありますが、バークシャー・ハサウェイ クラスA(NYSE: BRK.A)の取扱いはしておりません。