今回は穏健派アクティビストとして知られる英投資ファンドのシルチェスター・インターナショナル・インベスターズ(以下、シルチェスター)について解説します。

シルチェスターは、米投資銀行モルガン・スタンレー出身のスティーブン・バット氏によって1994年にロンドンで設立されました。2018年末の運用資産は約4.4兆円で、日本株にも約1兆円投資しています。

世界中の企業に投資を行なっており、財務分析をもとに割安銘柄をピックアップし、長期保有するバリュー投資家としても有名です。日本企業への投資は、地銀や建設・不動産・情報通信など多岐に渡っています。

日本株に投資するアクティビストとしては、以前の記事で紹介したエフィッシモ・キャピタル・マネジメントに次ぐ規模となっており、マーケットの注目を集めるアクティビストファンドの1つです。

機動的な売買をするシルチェスター

シルチェスターは2007年から奥村組(1833)に大量保有報告書を出しており、2012~2015年のピーク時には12%保有していましたが、2017年に株価が急騰すると保有割合を一時5%以下に減らしました。

シルチェスターは長期投資を行なうアクティビストファンドですが、株価を見ながら機動的売買しているようです。ただ、2020年以降は再び保有割合が10%を超え、2020年12月の大量保有報告書では13.95%まで保有割合を増やしています。

奥村組のPBR(株価純資産倍率)は1倍を割り込んでおり、割安株として奥村組に積極的に投資していることが分かります。

地銀再編による株価上昇を期待

シルチェスターはPBRが低い地銀にも投資しています。シルチェスターが大量保有報告書を出した地銀は、中国銀行、滋賀銀行、沖縄銀行などです。これらの直近の大量保有報告書は以下の通りです。

中国銀行 2018年12月6日 6.08%
滋賀銀行 2019年4月1日 8.51%
沖縄銀行 2020年4月24日 11.29%

これらの地銀のPBRは0.2~0.5倍となっており、シルチェスターは割安株として投資しているほか、地方銀行の再編によって株価が上がることを期待していると考えられます。

バリュー投資家で穏健派アクティビストと知られているシルチェスターですが、2019年に滋賀銀行に書簡を送りました。滋賀銀行のコーポレートガバナンスが不十分であり、配当などの資本政策が適切ではないと指摘する内容です。

そして、自社株買いや増配などの株主還元策を求めました。シルチェスターは長期投資が前提で、経営陣との対話に重きを置くバリュー投資家のイメージを持たれています。しかし、滋賀銀行が対応しない場合には株主想定案を提出する可能性にも言及しており、場合によってはアクティビストの強健な手法も用いる姿勢も見せています。

シルチェスターが地銀株に投資しているのは、業界再編に期待しているからだと考えられます。また、地銀は株価が安く、PBRが0.5倍以下の銘柄が多くあります。株価が安ければ、同じ金額で大量の株式を買うことも可能です。

SBIホールディングスが地方銀行との連携による「第四のメガバンク構想」を掲げていることもあり、今後、地銀の再編がどのように進むのかに注目したいところです。

株主提案とアクティビスト行動

アクティビストは株式の数%を保有して株主提案することが多いのですが、通常、アクティビストから企業に書簡が届くのは毎年秋以降です。

決算の6ヶ月前より発行済株式総数の1%以上、または300個以上の株式を保有していると株主提案権があります。そして3月決算の企業が開催する6月の定時株主総会に株主提案を出すためには、前年の9月末までに名義書換を済ませる必要があります。

2020年に提出された大量保有報告書のうち、提出者に関する保有目的等において「重要提案行為等」の記載がある案件は989件と、コロナ禍においても活発でした。「重要提案行為等」とは、代表取締役選解任や配当の変更など、アクティビスト活動に関する内容です。

シルチェスターは近年、日本企業の株主総会で株主提案を行なっていませんが、いつでも重要提案行為をできるようにしています。

最近のシルチェスターの大量保有報告書を見ると、日本化薬(4272)16.82%、ダイセル(4202)13.47%、日本発条(5991)11.29%など、10%以上の株式を保有する企業の数が増えています。シルチェスターは日本株への投資を進めていると考えられ、今後は日本企業に対しても積極的に株主提案をするのかどうかが注目されます。