中国が世界の工場として発展してきた過程で、台湾の企業は、中国に進出したり、中国企業と合弁したりして、中国での生産・製造を支援してきました。ホンハイ(鴻海精密工業)の中国子会社が上海に上場して、巨大な上場企業となったことは 前々回(第25回)に書きましたが、その規模たるや子会社というレベル感を超えています。生産コストの安さから、生産拠点を中国に持つことは巨額な利益を企業にもたらしました。米国企業も例外ではありません。そして、その過程で、最新技術やノウハウなどが、中国に移転していったのです。トランプ政権が問題視する「知的財産権の侵害」とは、まさにこの事を指しています。一例ですが、液晶などは、技術移転してしまった例でしょう。
米国が懸念していることの一つに、半導体の技術があります。半導体の需要は今後も増加が見込まれています。IoT化で世の中のあらゆる電化製品がデバイス化する見通しの中、このトレンドは今後も加速するでしょう。現在でも、中国は半導体の30%を製品生産のために必要としています。しかし、中国国内では、まだ半導体の生産はうまく行っていません。中国は好条件を提示して、台湾からファブ(半導体製造企業)*を誘致したり、政府が資金を提供し技術を導入したりして、中国企業による国内での半導体生産に向け、テコ入れを図っています。ファブ企業の中国子会社の半導体生産は始まりましたが、生産される半導体は二世代前の型に留まっています。そして、中国が独自に立ち上げた半導体工場では、まだ本格的な製造に至っていません。中国は、液晶生産でうまく行った戦略を採ってきましたが、こと半導体に関しては、機能しているとは言い難いのが現状です。
台湾は最新の技術を移転させる結果を恐れており、最新技術の移転には慎重です。ファブ企業は、中国子会社を作り、そこで生産は始めて中国国内に供給する半導体の一部をまかない、中国政府の顔も立てています。しかし、技術移転には非常に注意しているのです。ファブ企業は台湾での最新の半導体の生産を拡大させて、追い付かれないように、更なる進化を遂げようとしています。
米国は、中国と台湾の関係が冷え込んでいることで、少しホッとしているかもしれません。半導体の生産とその技術の獲得競争は、今後、軍事的にも重要であることは言うまでもなく、経済面での覇権にも影響を与えかねません。米国は、台湾を支援して技術移転を抑制する一方で、中国には知的財産権の侵害を訴えて、貿易摩擦を仕掛けて来ているのです。トランプ政権も実にしたたかです。
*半導体製造業では、近年は、半導体の設計に特化して生産ラインを持たないファブレスと呼ばれる会社と、半導体そのものの製造に特化するファブと呼ばれる会社に分化し、設計と製造が分業されています。
コラム執筆:Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank (NWB)
世界三大金融市場の一つである香港にて、個人投資家に、「世界水準の資産運用商品」と「日本水準のサービス品質」、個人向け資産運用プラットフォームとしての「安心感」を併せて提供している金融機関。マネックスグループ出資先