香港の金融雀達の間で今盛り上がっているのは「どの企業が香港でバーチャルバンクの第一号ライセンスを取得するか」である。5月末に香港金融当局の副長官が、記者会見で「既に50社以上がバーチャルバンク免許申請に興味を示しており、8月末に第一次締め切りを考えている」と発表した。このニュースは地元新聞でも大きく取り上げられ、日本経済新聞でも報道されたのでご存知の方も多いと思う。 バーチャルバンクとは、実店舗を原則持たないネット専業銀行を指す。日本では、現在ソニー銀行・楽天銀行・ジャパンネット銀行等先行組に加えて住信SBI銀行等あるが、アジアの金融センターである香港には意外な事にネット専業銀行は現在存在しない。やはり、香港の金融巨人HSBC、Standard Chartered Bank.中国銀行の3大発券銀行の力が強く、ネット専業銀行の設立余地があまりないと思われてきたのかもしれない。 香港は人口約720万人、東京都の3分の2程度の人口の街に普通銀行だけで世界中から200行以上ひしめき合う金融の街であるが、その中にあっても新規の普通銀行業務参入意欲は、依然極めて強い。その背景には、世界第二位のGDPを誇る中国本土の法人・個人の金融ゲートウェイとしての香港の役割は、益々強まっているからである。先週の昼食会で、ある香港財界人トップと話をした際に「数年後には、中国本土の中間層は5億5千万人になる見込みだから、その時に備え企業も巨大な中間層の出現に備えよ」と言うのが彼の話の骨子であった。今まで金融に縁のなかった数億人が金融機関を使い始める事は、ある意味で金融機関にとってのインパクトは強烈である。その数億人の内、10%の人が香港を通じた金融活動をすると仮定しただけでも、数千万人の新たな金融需要が香港に生まれることになる。 そして最近の「Fintech」の潮流である。香港は、今、ライバル・シンガポールにFintech分野では後塵を拝していると言われる。ニューヨーク・ロンドンと並ぶ世界の3大金融センター香港のメンツにかけても、ここはFintech=香港の評判を勝ち取りたいところであろう。香港当局の中にも専門部局を2016年に作り、その意気込みは驚くばかりである。2012年に香港の政府高官にお会いした際に、資産運用業務では香港はシンガポールには後塵を拝していますね・・・。と申し上げたら、烈火のごとく怒りだし、今年中にアジアナンバーワンになるとコメントされ、事実2012年に規模ではアジアナンバーワン、成長率では世界一になったのは記憶に新しい。Fintech分野でも、一気にアジアナンバーワンに名乗り出ようという意気込みが香港当局に感じられるが、その大きな一手になるのが、この「バーチャルバンク構想」でないかと思われる。多くのFintech企業が名乗りを上げていると言う噂も頷け、当面香港でのバーチャルバンクの動きからは目が離せない。 ゲームは更に面白くなってきた。

コラム執筆:Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank (NWB)
世界三大金融市場の一つである香港にて、個人投資家に、「世界水準の資産運用商品」と「日本水準のサービス品質」、個人向け資産運用プラットフォームとしての「安心感」を併せて提供している金融機関。マネックスグループ出資先