5月9日に実施されたマレーシア総選挙(連邦議会下院、定数222)で、野党連合・希望連盟(PH)が与党連合・国民戦線(BN)を破り、マレーシア建国以来初めての政権交代が実現しました。事前の世論調査では、マハティール元首相(92)を首相候補として擁立する野党連合・希望連盟(PH)が、推計支持率で与党連合をやや上回るものの、国民戦線(BN)は、選挙区の区割りを有利なように変更したり、BN地盤のボルネオ島部や農村部に議席を手厚く配分したりと、対策を講じ、接戦またはBN有利が言われてきました。しかし、ナジブ前政権の腐敗に対する批判の高まりなど、BNを支持してきたマレー人にもBN離れが進み、PHの地滑り的な勝利となりました。結果は、マハティール氏率いるPHが113議席を獲得し、多数を握った一方で、ナジブ前首相率いるBNは79議席の獲得にとどまる大差がついたのです。

この結果、マハティール氏は92歳で首相に返り咲きました。選挙で選ばれた指導者としては世界で最も高齢となります。まず、マハティール氏自身の高齢問題が第一の課題となります。選挙では、マハティール氏は、ナジブ政権打倒を目指し、確執のあったアンワル・イブラヒム元副首相(70)と手を組みました。しかしアンワル氏は、かつてはマハティール氏の後継者とみなされていましたが、のちに対立し、その後は同性愛行為を巡り有罪判決を受けて、現在も収監中の人物です。選挙に勝利した場合、国王にアンワル氏の恩赦を求め、釈放されればアンワル氏に首相の座を譲ると公約しましたが、この禅譲をどう進めるのか、注目されます。 また、マハティール氏が糾弾してきた公的資金流用疑惑を抱えるナジブ氏に対する処遇にも注目が集まります。マハティール氏は、「仕返しはしない。だが『法の支配』に従う」として、捜査をすでに開始し、刑事訴追する可能性を示唆しました。 公約の一つでもある、消費税の廃止も、注目されていましたが、6月からの税率を6.0%から0.0%に引き下げると発表し、政権の政策実行力が疑われる中で、矢継ぎ早に事を進めるあたりは、マハティール首相は、流石に経験豊富な辣腕政治家だなと、感心させられます。 中国の影響力が強まる中で、経済運営を順調に行ってきたナジブ政権の経済政策をどうするかにも注目が集まります。マレーシア経済は2017年に5.4%成長を遂げる一方、インフレ率も3.7%にとどまり良好な状態でした。しかし、2018年の成長率は4.8%と2017年より見劣りする予想です。 寄り合い所帯の新政権の政策能力に懐疑的な見方もあります。そのため、総選挙後、マレーシアの通貨リンギットは小幅ながら、対米ドルで下落して推移しています。しかし、リンギットは長期的には、歴史的な安値圏にあり、長期的にリンギット上昇の流れにあると筆者は引き続き見ています。かつて22年間政権を担い、ルックイースト政策などマレーシアの工業化を推進して経済成長を導いたマハティール首相が大胆な施策に打って出るとの期待感もあります。マハティール首相の指導力で、早期に市場の信任を取り戻せるかが、大きな鍵となるでしょう。

コラム執筆:Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank (NWB)
世界三大金融市場の一つである香港にて、個人投資家に、「世界水準の資産運用商品」と「日本水準のサービス品質」、個人向け資産運用プラットフォームとしての「安心感」を併せて提供している金融機関。マネックスグループ出資先