米国金利が急ピッチで上がっている。2013年からのチャートを見てもFed Fundsレートがゼロから今では1.70%(5月11日現在)でまで来ている。実はこの米国金利高を他人事に思えないのが香港金融当局そして住宅ローンを借りて不動産を買っている香港市民なのである。

香港ドルは、英国統治時代から返還後の今も「100%の準備通貨の裏付けの下」で発行されている。香港には発券銀行なる中央銀行がなく、香港上海銀行、スタンダードチャータード銀行、中国銀行の3商業銀行が発券銀行として準備通貨(米ドル)を為替基金に預入し、その米ドルを信用の裏付けとして紙幣が発行されている。このカレンシーボード制は、英中交渉中の1983年に香港ドルの安定性を維持する為に採用されている。従って、人民元とは信用の裏付けが異なる完全兌換通貨であり、金融市場そのものは一切為替規制のない市場なのである。それゆえ海外投資家が安心して取引ができる場が提供されているといえる。

この米ドルぺッグの香港ドルが今回の米国金利高の結果、過去35年で最大の安値となり、香港当局が香港ドル価格維持の為、4月に13回以上の為替介入を行い合計510億香港ドルもの香港ドル買いオペレーションを行った。その結果最安値対1米ドル7.85から7.80まで一瞬戻したが、また5月11日現在下限の7.85に近づいている。(目標相場圏が7.75-7.85)香港金融当局ノーマンチャン長官も大規模な為替介入を認めつつ、香港市場には十分な流動性があり急激な金利上げはないとしても、今後を見据えれば、次第に金利水準は香港においても上がっていくのではないかと述べている。

今、香港市民の関心事は、香港ドル安よりも、香港ドル金利の行方である。香港の不動産は、リーマンショック後の10年、過剰流動性と低金利を謳歌して、金融機関の積極的な融資姿勢もあり、不動産価格は天井がないと言われるほどに上がり続けている。そんな中で、自宅用の住宅ローンに加えて、老後の年金代わりに投資用マンションもローンで購入しているのが珍しくない香港市民にとっては、金利の上昇は家計を直撃する頭の痛い問題なのである。

風が吹けば桶屋が儲かる。米国金利が上がると、香港市民の財布の懐具合が寂しくなる。米ドルぺッグとはそういうことなのかと肌で感じる今日この頃である。

コラム執筆:Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank (NWB)
世界三大金融市場の一つである香港にて、個人投資家に、「世界水準の資産運用商品」と「日本水準のサービス品質」、個人向け資産運用プラットフォームとしての「安心感」を併せて提供している金融機関。マネックスグループ出資先