定年退職が近づくと退職金や企業年金制度の受け取り方について説明され、期限までに手続きするよう促されます。ビジネスパーソンが受け取る額としてはおそらく人生最大の金額であり、退職後の生活を支える大切なお金ですから、後悔するような受け取り方はしたくないものです。受け取り方でベストな選択をするためには、会社ごとに異なる選択肢を知ることから始まります。

企業年金の選択肢・受け取り方の手順

企業年金の受け取り方というと「一時金」か「年金」かの2者択一だと思っている方がよくいらっしゃいますが、そんなことはありません。「一時金」と「年金」を組み合わせたり、年金の受取年数や受取開始の時期が選べるなど、様々な選択肢があります。引退後の暮らしに合わせて選べるようになっているのです。

例えば、住宅ローンがまだ相当残っていて、企業年金をその返済に充てようと考えている方の場合は、まとめて受け取る必要があります。しかし、そうではなくて、60歳以降は現役時代よりも給料が下がるので生活費をカバーする資金に充てたいということであれば60歳の時点でまとめて受け取る必要はありません。

慣れない大金を手にしてしまうと、必要のない贅沢品に大金を投じてしまったり、金融機関のおすすめ商品に訳も分からず投資してしまい気がついたら3割ぐらい減っていた、というような失敗もよく耳にします。年金として分割して受け取るという選択肢であればこのあたりの失敗は避けられるでしょう。

後悔しないための受け取り方の手順は、以下の通りです。

(1)企業年金の受け取りの選択肢を知る
(2)働いて得る収入や公的年金も加味して、いくつかの受け取りパターンを比較する
(3)受け取り方を決めたら手続きのための必要書類を取り寄せる
(4)必要な添付書類等を準備して、合わせて提出する

それでは受け取りの選択肢として確認すべきポイントを、企業年金の代表格である確定給付企業年金(DB)、確定拠出年金(企業型DC)についてそれぞれ見ていきましょう。

確定給付企業年金(DB)を受け取る際の確認ポイント

ご存じない方が多いのですが、確定給付企業年金は退職時点でまとめて受け取らず、年金として分割したり、受け取りのタイミングを遅らせたりすると、その据え置きしている残高に対して年1.0%以上といった金利が付与されます。大口定期でも0.002%という時代ですから、大変魅力的な仕組みです。この付与される利率を含め、受取額に影響を与える確定給付企業年金(DB)の確認ポイントは5つあります。

付与される利率

付与される金利は正式には「給付利率」と言います。この利率が高い場合は、なるべく受け取りを遅らせることを検討してみてはいかがでしょうか。

年金で受け取れる要件

そもそも年金で受け取る選択ができるのは、一定年数以上の勤続年数や退職事由が定年などと会社に長く貢献してくれた方に限られています。自己都合で退職する場合は要件が満たされない可能性もありますので、確認しておきましょう。

受け取り年数やタイミング

10年・20年という年数の選択肢はもちろん、振り込みのタイミングが奇数月に年6回15日に、というように決まっています。生活費に充てる場合は、お金が入ってくるタイミングを事前に押さえておきたいところです。また亡くなるまでずっと受け取ることができる「終身」という恵まれた選択肢があるのであれば、最大限それを活用されてはいかがでしょうか。

一時金との併用はあるか

もし一時金と年金を併用できれば、住宅ローンの返済に必要な額は一時金で、残りは年金で…というような受け取り方が選択できることになります。

受け取り開始時期を選択できるか

最近は60歳が定年でも65歳までは再雇用等で働けるようになったことに合わせて、受け取り開始を65歳まで先延ばしすることができる制度になっているところも少なくありません。

実は60歳に退職一時金を受け取った後、5年以上開けて確定給付企業年金を一時金で受け取ると、退職所得として合算対象にならないことから、退職所得の課税対象額を大きく減らすことが可能です。このような税制上有利な受け取り方が選択できるのかを確認してみて下さい。

確定拠出年金(企業型DC)を受け取る際の確認ポイント

確定拠出制度(企業型)では加入者として会社が積立をしてくれている間は各種の費用をすべて会社が負担しています。しかし、加入資格を喪失した後は口座管理料等を本人負担にしている会社が半数に上ります。さらに受け取りの都度かかる振込手数料のような費用も本人負担になる場合が多いです。

確定拠出の場合は法令上60歳時点で加入期間等(制度移行があった場合には前の制度に入っていた期間も合算される)が10年以上あれば、60歳以降75歳(2022年4月以降は75歳)までの間で受け取り開始時期を自由に選ぶことができます。残高がある間は基本的に非課税での運用がずっと継続できるメリットがありますが、一方で口座管理料がかかり続けることになります。ですから、費用が自己負担かという点が1つのポイントになります。

会社の積立終了後の口座管理料は自己負担か

確定拠出制度(企業型)では加入者として会社が積立をしてくれている間は各種の費用をすべて会社が負担しています。しかし、加入資格を喪失した後は口座管理料等を本人負担にしている会社が半数に上ります。さらに受け取りの都度かかる振込手数料のような費用も本人負担になる場合が多いです。

口座管理料などが自己負担となっている会社の場合は、費用が残高から差し引かれていくため、受け取り終えるまでの期間が長くなるにつれ手取りが減っていってしまいます。勤務先の制度が、60歳以降自己負担する費用が発生するのであれば、そのデメリット額を確認するとともに、受け取りを遅らせることによる運用メリット額を企業型DCの残高と自身のこれまでの運用状況から想定して、メリットとデメリットを比べてみるとよいでしょう。メリットがあまり大きくないのであれば、なるべく早く、振り込み回数が少ない受け取り方を検討するのが良いでしょう。

「受け取り年数やタイミング」と「一時金との併用はあるか」の確認ポイントは確定給付企業年金と同じです。

今回のまとめ

受け取りの選択肢が分かったら、税金や社会保険料なども考慮しながら、公的年金とともにいくつかの受け取りパターンを比較してみてください。

企業年金の受け取り方を考えるということは、60歳以降のライフプラン、例えば「いつまでどんな風に働いて収入を得るか」や、「どこでどんな暮らしをして、どれくらいの金額がかかりそうか」を考えることに他なりません。

一緒に暮らすパートナーがいればその方との対話や調整も必要です。ぜひ60歳直前ではなく、もう少し余裕を持って早めに検討を始めていただき、じっくり納得がいくまで考え、後悔しない選択をしていただきたいと思います。

本記事は2021年3月に公開し、2022年5月1日に更新しました。(更新時点の情報となります)