3月の最終週は、香港の街はアート一色であった。世界最大の現代美術の祭典Art Baselが灣仔の香港コンベンションセンターで開催され、同時にArt Centralもお隣のセントラル地区で開催された。二つのイベント会場は目と鼻の先。1キロ程度しか離れてない。その2会場に約300以上の世界のギャラリーが集まり、巨匠アーティストから新進気鋭のアーティストまで所狭しと(展示スペースは巨大だが)作品が展示される。 Art Baselについて簡単にご説明しておくと1970年に始まり、世界では本家のスイスのバーゼルに加え、アメリカではマイアミ、そしてアジアでは香港で毎年開催される。現代美術といっても過去120年前まで遡り、その間に活躍された・・活躍されているアーティストの作品が展示される。従って、20世紀の巨匠ピカソやマチスの作品も何気なく飾ってある。 日本での絵画展覧会というと、筆者の印象は「ルーブル美術館特別展」みたいな感じで、日通が技術の粋を集めてフランスから十数枚の作品を上野西洋美術館に運搬し仰々しく展示される。それを見ようとする群衆が美術館の前に二時間待ちの列を作る。場内は熱気で溢れ余りに混んでいるので鑑賞ではなく「見える」時間は5分程度、あのガラスケースの「絵」みえたよね・・・・。で満足して、観客は疲れて上野精養軒で甘いコーヒーとケーキを食べて帰路につく。そして売店で購入したパンフレットと5枚セットの絵葉書を後生大事にお土産として持って帰る。 Art Baselは、この日本的な展覧会ではないのだ。Art Baselは絵の巨大な「取引所」なのである。世界中のギャラリーが自慢の作品を持ち寄って、紳士淑女のコレクターの皆さんに買ってもらう場なのである。3日間で7万人以上の来場者があるようだが、入場者は「絵は買うものだ」と思って来場している人が多い。従って、鑑賞するほうも展示するほうも真剣勝負である。一つのギャラリーが何点出品しているかはわからないが、5千点以上は展示されているのだろう。筆者も、よし今回のArt Baselでは気に行った作品があれば買うぞ!と意気込み、金曜日に2回、土曜日に1回、都合3回鑑賞の機会を持った。3回目は、朝一番で開場と同時に入場し、誰もいない廊下を歩き、これと思った作品のところまで行ってみた。不思議なもので3回も見ると愛着もわいてきて、自分の部屋に飾って毎日鑑賞してみたいと思うようになる。そして筆者も思い切ってそこのギャラリーの方に値段を聞いてみた。 「340万香港ドル(日本円で約4,600万円)ですが、残念ながら既に売約済です。」 と申し訳なさそうに担当の女性に言われた。 香港では、ガラスケースに入っている遠い存在の「Art」ではなく、身近に「Art」を感じさせ、たとえそれが手が届かない値段であっても、頑張って私を貴方の傍において・・と「Art」が語りかけてくれる。「一作品と思い過ごしの恋」ができるArt シーンを演出してくれる街なのである。
コラム執筆:Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank (NWB)
世界三大金融市場の一つである香港にて、個人投資家に、「世界水準の資産運用商品」と「日本水準のサービス品質」、個人向け資産運用プラットフォームとしての「安心感」を併せて提供している金融機関。マネックスグループ出資先