円高予想が大勢だった2021年の米ドル/円相場ですが、1月の102円台をボトムに上昇トレンドを描いています。米ドル/円相場がボトムをつけたのでしょうか。
ボトムをつけた米長期金利
目下、市場関係者の最大の関心は米長期金利の上昇にあります。米金利上昇は、コロナ禍において金利を引き下げ、大規模な量的緩和策を実施してきたFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策が想定よりも早く引き締められるのではないかという思惑に繋がり、ゴルディロックス相場を謳歌してきた株式市場の上昇にイエローカードとなるためです。
1980年代には15%もあった米長期金利は緩やかに下落を続けてきました。そのような中、2020年3月にコロナショックを受け、0.36%という歴史的水準にまで低下しました。これは米国の債券を10年間保有しても各年の利回りがわずか0.36%にしかならないということを表しています。
2021年、年明け早々に1%台を回復した米長期金利は2月に1.4%近くまで上昇してきました。FRBが決定する政策金利は0~0.25%です。市場金利がどんどん乖離しています。FRBは2023年末まで利上げを行わない方針を示していますが、市場では想定より早くFRBが動くのではないかと警戒感を強めています。
これまで低金利下において、米ドル安が進んできました。「米ドル安・株高」を謳歌できたのは金利が当面引き上げられないという安心感があったためです。景気上昇に伴って金利が上昇してきたのであれば心配はいりません。
しかし、景気回復とは別の要因、例えばバイデン米政権下では財政支出が巨額になる可能性が高いことから、債券市場の需給が悪化することへの懸念による金利上昇だとすれば、景気回復に水を差すことになります。
市場では今、「なぜ金利が上昇しているのか」について論じられていますが、この米金利上昇が背景にあるのでしょうか。そのような状況のなか、米ドル/円相場が緩やかに上昇トレンドを描き始めました。
日本の政策金利
日銀は長期金利操作 (イールドカーブ・コントロール、YCC)と呼ばれる、長期債利回りをゼロ近傍に固定する金融政策を導入しています。つまり日本の債券利回りはゼロ近傍から動きません。よって、米国の長期債利回りが上昇すれば「日米金利差」が拡大します。金利の高い債券のほうが利回りが期待できるとして資金を呼び込むため、米長期債利回り上昇は米ドル高の要因となっていきます。
菅政権の為替政策
円高が懸念されていた年明け1月7日に、財務省と金融庁、日銀が国際金融資本市場に関する情報交換会合を開いたことが報じられると、米ドル/円相場は急反発となりました。3者会合については、会合を持つこと自体が重要な意味を持つのです。
為替市場関係者らの間では「この3者が会合を持つのは円高が強く懸念される状況にある時で、会合後に為替市場の動向を注視するとコメントされるだけで円高が止まる」という見方があります。
また菅首相は2月15日、最も重視する経済指標について質問され、「基本的には為替について注視している」と述べたことにも注目が集まっています。「菅政権下では過度な円高には対処していく構えがあるのではないか」という見方が市場関係者らの間で広がりつつあるようです。
ワクチン相場としての円安
年明けから為替関係者らの間で話題となっていたのは、新型コロナワクチンの購入代金です。日本は海外の製薬会社から約3億回分のワクチンを輸入・調達するため、年間で数千億円規模の円売りが生じるとの見立てが2月16日付けの日本経済新聞にも掲載されていました。インフルエンザの予防接種と同様に新型コロナワクチン接種が毎年必要になる可能性もあり、「今後2~3年で数兆円規模の円売りが出てくる」との見方もあるようです。
その他にも持ち直した原油価格が輸入コストの増大につながることから貿易収支の赤字=円安要因になるとの観測も強まっており、円売り要因が増えている印象です。米ドル/円相場は年初102円台がボトムで2021年は緩やかに上昇するサイクルにあるように私は感じています。