ビットコインと共にビットコイン関連企業への関心も高まる
2月8日、米EV大手のテスラ(TSLA)が15億ドル相当のビットコインを購入したことを発表した。テスラが米証券取引委員会(SEC)に提出した年次報告書の中で、同社は市況に応じてビットコインをはじめとするデジタル資産の売買を検討すること、また、同社製品におけるビットコイン決済の受け入れを検討することを明らかにした。これに先立ちヘッジファンドや決済業者の投資も報じられていたが、暗号資産業界はビッグプレーヤーの参入に沸き立ち、この報道を受けてビットコインの価格は500万円を超える水準まで一気に上昇した。
このように2020年末から企業がビットコインを直接購入する事例が増えている一方で、ビットコインに関連した株式銘柄(以下、ビットコイン関連株)への投資を増やす動きもある。米国最大級の公的年金基金である米カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)は、米ナスダック上場企業で、北米においてビットコインのマイニング事業を展開するライオットブロックチェーン(RIOT)の株式を2017年より保有していたが、昨年末にかけて同社株を大幅に買い増した。追加購入の理由としては、ビットコインの価格高騰による同社事業の伸びを期待しての判断であると推察される。
2020年末から続くビットコインの価格高騰は、ビットコインそのものだけでなく、それに関連した企業への関心も高めているのである。
ビットコイン関連株の特徴からわかる米国と日本との違い
それではどのようなビットコイン関連株があるのか、紹介しよう。
図表2は米国ナスダックおよび日本の東証一部に上場されている主なビットコイン関連株を挙げたものである。米国では、世界最大手の暗号資産取引所であるコインベースが今まさにIPOを計画しているが、2018年以降に上場企業による暗号資産取引所の買収などが相次いだ日本とは違い、暗号資産取引所を運営している上場企業が現状ないことがわかる。また、米国ではマイニング事業が中国にならぶ中心地として育っているのに対し、日本では、2018年にGMOインターネットやDMM、電気会社らが参入を検討したものの、電気代など事業環境の悪さから揃って撤退する結果となっている。そして、日本では、公表されている限り、取引所を除いて上場企業によるビットコイン保有の事例がないことが改めて確認できる。
今後、米国では、コインベースの他にも暗号資産関連企業がIPOを目指す動きや、上場企業がカストディなどの暗号資産関連企業を買収する動きなども間違いなく増えてくるだろう。日本においても、米国が先行している部分を取り入れる形で上場企業によるビットコインの購入など何か新しい動きが出てくれば、ビットコインやビットコイン関連株への注目がさらに増すと思われる。
ビットコインとビットコイン関連株のパフォーマンス
次に先ほど紹介したビットコイン関連株の2020年のパフォーマンスについてビットコインと比較しながら見ていく。
図表3はビットコインとナスダック関連銘柄の年間騰落率(2020年)を並べたものである。マイニング事業を展開するライオットブロックチェーン(RIOT)とマラソン・パテント・グループ(MARA)がビットコインの約300%を大きく上回るパフォーマンスとなった。この背景には、両銘柄のもとの流動性が低かったという側面もあるだろう。しかし、両社のマイニング事業の収益性はビットコインの価格高騰に合わせて通年で大きく改善されており、そのなかで投資家たちがマイニング事業を新たな投資対象として高く評価したことも背景の一つにあるのではないか。
そうであれば、ビットコインへの関心が高まるにつれて、そのネットワークを支えるマイナーの価値もまた広く認められつつあるということになる。また、ツイッターCEOのジャック・ドーシー氏が率いるスクエア(SQ)は決済アプリ「CashApp」における暗号資産取引が好調となり、ビットコインに迫る大きな成長を遂げた。ビットコイン保有の企業先駆者であるマイクロストラテジー(MSTR)も、ビットコイン高騰の恩恵を強く受け、ナスダック指数の約44%と比較して極めて良好な成績となった。
図表4はビットコインと東証一部関連銘柄の年間騰落率(2020年)を並べたものである。やはり日本市場と米国市場との全体差もあり、いずれもビットコインには遥かに劣るパフォーマンスとなっている。しかし、各社複数の事業を展開しているため一概に述べることは難しいものの、TOPIX指数と比べたときには暗号資産取引所を運営するこれら全ての銘柄が好調であった。その中で、ビットコインの価格高騰によって事業の伸びが期待された反面、各取引所の業績の良し悪しが株価成長率の差に影響した部分もあるだろう。
ビットコインとビットコイン関連株の相関性
最後に、2020年1月から2021年1月にかけてのビットコイン関連株とビットコインとの相関性について確認する。その際、ビットコインの終値の時限によって多少のブレが生じうることは留意いただきたい。今回はCoingeckoの価格データ(UTC、0時)をもとに算出した。
図表5はビットコインとナスダック関連株の1ヶ月間相関係数の推移を、図表6は期間全体の相関係数を表したものである。図表5では、ビットコインの半減期があった2020年5月にかけてマイニング事業を手掛ける(RIOT)や(MARA)との正の相関が確認でき、その後、業界全体としてマイニング事業の持続性が懸念された数ヶ月間はDeFi流行に伴うビットコイン価格高騰に反して負の相関に転じた様子がわかる。一方で、図表6で年間を通した数値を見たときにはビットコインとそれぞれの銘柄に相関性はほとんどなく、(SQ)や(MSTR)が話題となった2020年10月以降であっても大きな傾向は確認されない(図表5)。
同様に、図表7はビットコインと東証一部関連株の1ヶ月間相関係数の推移を、図表8は期間全体の相関係数を表したものである。図表7では、新型コロナウイルスの発生に伴う暴落時からビットコインが先行して価格を回復したことによる相関性の変化を読み取ることができ、2020年末から現在にかけてはほとんどの銘柄で正の相関性が高まっている傾向が見られる。図表7で年間を通した数値を見たときにも、はっきりとした相関があるとまでは言えないが、米国のナスダック関連銘柄と比べれば相応の正の相関が認められる。
以上をまとめると、ビットコインとビットコイン関連株の間には恒常的な相関性はない。ファンダメンタルズがなく、他のアセットと独立した値動きをする、それこそがビットコインの投資対象としての魅力である。しかしながら、ビットコインが強い値動きをする場合には、短期的にビットコイン関連株との相関性が強まる傾向がある。特に企業業績に直結するマイニング事業や暗号資産取引所を行う銘柄の場合にはその傾向が顕著である。
さて、冒頭で触れたように、今月から世界時価総額ランクトップ10位に入る米EV大手テスラがビットコイン関連株の仲間入りとなった。同社がビットコイン保有高を増やしていけば、同社の株価がビットコイン価格の影響を一時的に受けることもあるだろう。そして、テスラ株のビットコイン関連株としての印象が強まったときには、その逆の反応も起こりうる。例えば、テスラ株が大きく下落した際にビットコインの売りが強まる可能性も今後は出てくるだろう。また、SNSでの言動がビットコインの価格にダイレクトな変動を及ぼすほどの影響力を有する同社CEOのイーロン・マスク氏が、今後どのような言動を見せるのかも注視する必要がある。