香港経済GDPの10%を握る男と言われる香港最大の企業グループ長江グループの創業者であり筆頭株主の李嘉誠氏が90歳を前に引退を表明した。1950年に創業し、香港最大の不動産開発企業の一つである。実は当社の現オフィスも、長江不動産の事務所が所在したところであり、ホテルと2つの高層オフィスタワーも全て李嘉誠氏のグループ会社が保有している。同グループは10社の上場企業を傘下に持ち、57か国で事業を展開し、総従業員26万人を超える大コングロマリットである。業種は、不動産・電力・海運・湾港事業・ドラッグストアチェーン・食品スーパー・飲料水・ワイン等々同氏の事業に無関係に香港市内で暮らすのは難しいと感じるほどである。 同氏は、広東省潮州市に生まれ、日中戦争の戦火からイギリス植民地の香港に逃れ、香港でも日本軍の占領下に入り高校中退を余儀なくされている。1949年に造花の香港フラワーが大当たりとなり、その後不動業に転身して、香港最大の不動産デベロッパーとなった。一つの寓話に、天安門事件直後で長安街の開発に他のデベロッパーが尻込みする中、同氏は一大商業施設を天安門広場の近隣に開発し、最終的には人民元建て初のREITで売り切って膨大な利益を得たことは、つとに有名な話である。 同氏のTycoonと呼ばれる所以は、一定程度の資産に満足せず、更なる再投資を続けて、リスクを取り、アジアナンバーワンと言われる資産家になったことである。香港がイギリスから中国に返還された1997年から2017年の20年間を見てみると同氏の資産は110億米ドル(日本円で約1兆2千億円)から303億米ドル(3兆3千億円)になんと3倍にも増えているのである。人間1兆円も資産があれば、何も増やそうとは思わないと思うのだが、それを20年間で3倍にする事業意欲とその成果。しかも、それは従来のアジアでの不動産業一辺倒から、地域の分散を図り、事業の多角化を果敢にこの20年で進めている。フラッグシップのハチソンワンポア社の収益の6割はなんとヨーロッパビジネスから上がっている。事業と地域の分散=これは我々が常日頃個人投資家の皆さんにお伝えしている投資対象セクターの分散、投資対象地域の分散そのものである。 フォーブス(Forbes)誌によると、香港ベスト50富豪のリストを見ても多くは不動産と金融とカジノであるが、李嘉誠氏だけは、資産項目がDiversifiedと書いてある。つまり、富の源泉は、しっかりと分散されているのである。これは、同氏が幼少のころから戦火を潜り抜け、国(政府)というものに一切頼らず、信用できるのは自分だけとの思いで事業を展開してきたから、本能的に地域と事業のリスク分散を図り、一方で伸びると見込まれる新たなセクターと地域に再投資してきたからであろう。 李嘉誠氏ではないが、筆者がある資産数千億円のファミリーオーナーに以前お尋ねしたことがある。その事業意欲はどこから生まれるのか? 曰く「難民の精神なのかもしれない。常に何かに追われ、安住の地を求めて更なる先に進むという精神が事業展開に繋がっているのだろう。」国内に安穏としている経営者に伝えたい一言である。
コラム執筆:Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank (NWB)
世界三大金融市場の一つである香港にて、個人投資家に、「世界水準の資産運用商品」と「日本水準のサービス品質」、個人向け資産運用プラットフォームとしての「安心感」を併せて提供している金融機関。マネックスグループ出資先