最近フィンテックと言う言葉を新聞に見かけない日はないと思うほどであり、やや食傷気味である。先般東京出張した際も、国内仮想通貨取引所がハッキングされて580億円が取引所から流失というニュースが延々とメディアで垂れ流され、取引所のセキュリティ対策が問題であったにも拘らず如何にも仮想通貨そのものが問題だという「雰囲気」が充満してほとほと嫌気がさしていたところである。
しかし、筆者の携わるビジネスを考えた場合、フィンテックと言うのを全く無視して前に進めない事を再確認したのも最近である。それは、中国本土の都市を巡り中国のフィンテック企業を訪問し、ついでながら昔の同僚にも会ってきた事がきっかけであった。頭に残ったのは、中国本土企業の「経営陣の熱さ・勢い」「想像を超えた拡大スピード」「群雄割拠」「一般生活へのフィンテックの普及」といくつもの言葉が走馬灯の様に動く。ある訪問先企業は、当社より1年遅い開業にも拘らず数年で既に顧客数は日本のメガバンク数行分くらいを獲得している。驚きを超えてその数の大きさとスピード感に呆れる。しかも、オフィスを訪問すると言葉としてこれぞ「ぎゅうぎゅう詰め」の状態で開発部隊が新システムの開発に勤しんでいる。「圧倒的なる業務量」が差別化の源泉だというのが同社経営者の言葉である。中国国内で1,000人以上の開発陣が日夜新しい金融サービスの開発に勤しんでいる。なんという事か。どうやってこれだけの人員を集めたのかと不思議になるが、一般よりやや高い給与を出せば人は集まる、との経営者の説明。「働き方改革」と言って声高に議論している日本がどんどん中国には抜かれているのがわかる気がした。
某フィンテック企業を訪問した夜、中国人の元同僚と北京のホテルで酒を酌み交わす。彼曰く「中島さん、お財布持っていますか?」筆者「当たり前だろ。ほら、ここにあるさ。一杯奢るから心配するな」と言うと、彼は2年前から財布を持たなくなったとの事。時代遅れの人間を見る目で元同僚に見られた。皆スマホ決済になっているから今中国本土では急速に財布が売れなくなっているらしい。そういえば、北京のコンビニで現金を出したら怪訝な顔をされた。現金使用比率が50%を超える日本とは雲泥の差である。
そして先週香港当局の某高官にお目に掛かった。曰く、時価総額5,000億ドルを超えたT社を初め中国本土フィンテック企業の伸びは物凄いものがある。香港もアジア発のテクノロジーを使って一気にこれまでと異なる金融領域を開拓しているのだと意気盛んだ。そして、1月23日スイスと香港がフィンテック分野での協業を発表したとの事。昨年来ドバイ・シンガポールに続いて3番目の香港の政策提携である。やはりフィンテックを巡り世界は動いているなと感じる。
今週、香港市内某所で8人の香港地元証券会社経営者達と鍋を囲み、4時間程話し込んだ。平均年齢60歳前後(筆者と同年代かやや年上)。株式投資歴30-40年の大ベテラン達だ。80年代のブラックマンデー、90年代のアジア危機、2000年代初頭のSARS騒ぎ、リーマンショック。いくつかの修羅場を乗り切ってきた男たちの話は、本当に面白く痛快である。なんども日本の仮想通貨流失事件の話をふっても誰も興味を示さない。まるで「あんなもの『投資』じゃないぜ」と言いたげだ。彼らが真剣に仮想通貨の話を始めた時が、仮想通貨と言うものが「金融商品」として認知されるときかもしれないとふと思った。
フィンテックを巡る景色は、未だ「まだら模様」である。

コラム執筆:Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank (NWB)世界三大金融市場の一つである香港にて、個人投資家に、「世界水準の資産運用商品」と「日本水準のサービス品質」、個人向け資産運用プラットフォームとしての「安心感」を併せて提供している金融機関。マネックスグループ出資先