アジア経済に関しては、2017年も力強い成長が続いたと言えるでしょう。アジアの成長率は、他の地域に比べて高いという状況も継続しました。アジアの2017年の成長率は5.6%程度に達した模様です。そのため、2017年も継続して多額の資本がアジアに流入してきたことに加え、世界経済の拡大に伴って、経済成長率を上回る貿易量の増加が見られたことが、アジア各国には恩恵となりました。また、商品価格の低位安定とアジア各国の通貨高により、インフレ率が過去に例を見ないほど安定的に推移したことも消費を拡大させ、経済成長の一要因となりました。 昨年も注目された、インドですが、その成長率は、2016年11月に実施された高額紙幣廃止政策による一時的な混乱と、先頃導入されたGST(物品サービス税)の影響によって2017年は鈍化しました。インドでは、州ごとに適用税率や税手続きが異なっていたことから、国内であっても州をまたがった取引や納税の手続きは煩雑で、商取引や物流の阻害要因となっていました。そのため、この新税導入を契機にインド国内市場の一元化を進めることで、インドの生産性改善が進展すると期待されています。足元では政策の浸透に時間がかかり、政策のマイナスの作用が出てしまっていますが、その効果は来年度以降にプラスに作用してくると予想されます。2017年の成長率は最近の減速を反映して下方修正されましたが、こうした一時的な要因が収束することで、中期的には成長が加速すると予想され、成長率7%台への回復は実現できるでしょう。 次いで、高い成長を継続しているインドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、シンガポールのASEAN5カ国は、2017年と2018年はともに4.9%の成長が予想されます。主な要因は、地域内投資の増加が継続していることと、米国をはじめ中国や日本を含む主要貿易相手先の経済が良好であるため輸出の増加が期待できることで、これにけん引されて成長が継続する見込みです。自由貿易を妨げるようなことが起こらなければ、上振れする可能性もあり得ます。 2018年のリスクと課題に関しては、アジア地域が全体として順調に経済成長を続ける中、上述の見通しに対するリスクは、以下のようなことに注意しておくべきでしょう。1つ目は、中国での急速な債務残高の積み上がりであり、2つ目は、世界的な保護貿易主義の高まり、3つ目は、平昌オリンピックで一時的に融和ムードもありますが、東アジアでの地政学的緊張が考えられます。アジア経済はグローバル・バリューチェーンへ統合され、それが効果的に機能してこそ恩恵が大きいのです。結局トランプ政権が誕生して保護貿易主義的な主張は注目されましたが、保護貿易主義に傾くことはなく、2017年は杞憂に終わったと言えます。最近のトランプ大統領の「変節」は、こうしたリスクが薄らいだことすら予感させます。しかし、貿易摩擦や為替戦争などとタカ派的な思考も根強いのは事実です。世界的に内向きの政策へのシフトが起これば、アジアの輸出を抑制し、直接投資を減らすという影響を及ぼす可能性は残ります。そして、日本はその渦中にあるとも言えますが、高まる東アジアの地政学リスクも地域の中期的成長見通しにマイナス影響を及ぼす可能性があります。

コラム執筆:Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank (NWB)世界三大金融市場の一つである香港にて、個人投資家に、「世界水準の資産運用商品」と「日本水準のサービス品質」、個人向け資産運用プラットフォームとしての「安心感」を併せて提供している金融機関。マネックスグループ出資先