日本は2月になると確定申告の季節になり、税理士さんが多忙を極め、確定申告が必要な方は2月から3月に納税を行う。一般サラリーマンの方は源泉徴収なので、あまり納税資金という感覚がないのではないかと思う。香港では、源泉徴収という考え方がなく、個人所得税の計算は毎年4月から翌年の3月までの給与手当に関して雇用主が「雇用主支払報酬申告書」を提出し、5月になると「個人所得税申告書」を提出し、毎年8月から11月に確定税額通知書が届き、翌年1月に全体の75%、残り25%を4月に支払うのである。 つまり、1月は個人にとっては「所得税納税の月」なのである。給与からの源泉徴収がないので、1年分の税金の75%を一度に払う事になり、今月は少々個人にとっては資金繰り上頭の痛い季節だ。香港の個人所得税は、一律15%か17%までの累進課税の少ない方が課税金額となる。我が国の最高税率55%に比べて4分の1程度の負担感で正に低税率地域である。しかも、源泉徴収ではないので、毎月の給与明細はとてもシンプルだ。例えば100の給与を支給されるとすると差し引かれるのは、MPFと言う香港版年金(最高額で1,500香港ドル、つまり23,000円程度)だけであり、MPFに加入していない場合は、全額そのまま支給されるのである。日本の様に健康保険等で手取りが総支給額から30%-40%を差し引かれる事はない。給与明細は、実質不要かと思うほどである。従って、ついつい1月の納税のことを忘れて、どんどん給与を使ってしまい、毎年1月に納税資金の資金繰りであたふたとしてしまう。税負担感は、日本と比べ物にならない程低いのだが、それでも1年分の個人所得税負担の4分の3を払うとなるとそこそこの金額になるからだ。 そこで、香港で人気なローン制度にTax Loanと言うものがある。銀行が個人向けに納税資金を貸し付けてくれるのである。納税額が大きいという事はそれだけ収入もしっかりとしているので、借り入れ人の信用力も高い。従って銀行側も低利で2-3%台の1年元利均等返済型のローンを提供してくれる。つまり、Tax Loanとは、納税資金一括払いを銀行が代わって分割払いを請け負ってくれているようなものだ。利用する方も、低利であるし、毎月一定額を1年間払い続けて終わるので、いつの間にか完済しているという気楽な処がうけて香港の個人の間では利用する人が多く、筆者の使っているHSBCでも今頃の季節は、Tax Loanの宣伝パンフレットが必ず毎月のステートメントと共に入っている。 やや話は変わるが、個人所得税納付の話となるといつも思い出すのが香港の数兆円資産を誇るある大富豪の「街の噂」である。その方は、年間の給与は自分の保有する会社から数十万円くらいしか支給されていない。その代わり、自分の保有する会社からの配当は、数百億円あるとのこと。その理由は、給与所得には、15%の税金がかかるが、配当所得は、保有割合に拘らず非課税になるからだ(日本は、5%以上の株主保有割合であると総合課税)。個人所得税の低税率に甘んじる事なく、しっかりと非課税で配当所得を主収入とするところは、流石大富豪になるだけのことはある。個人所得税が15%という低税率と言って喜んでいては、なかなか大富豪への道は遠いようである。

コラム執筆:Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank (NWB)
世界三大金融市場の一つである香港にて、個人投資家に、「世界水準の資産運用商品」と「日本水準のサービス品質」、個人向け資産運用プラットフォームとしての「安心感」を併せて提供している金融機関。マネックスグループ出資先