ファミリーオフィスと言う言葉はご存じだろうか?

事業に成功した資産家ファミリーが、経営対象の事業から家族の資産を分離し、その資産管理特別目的会社を通じてそのファミリーの家系・家督・家訓を守り一族の永続的繁栄を司るのがファミリーオフィスと言うわけである。元々は欧米で発達した概念ですが、当地香港は、長い間英国領であった事もあり、欧米並みにファミリーオフィスが多く、香港経済は800ファミリーオフィスに牛耳られているとも言われている。 今般、ある方の依頼で、筆者の知人である香港の5つのファミリーオフィスにお邪魔して色々とお尋ねする機会に恵まれた。5つのファミリーのビジネスは多岐にわたり、それぞれの資産管理会社の傘下には、金融、不動産、流通、衣料等香港を象徴する産業に加え、既に複数事業を擁するコングロマリット化しているケースもあった。今回は、香港で3代以上続いているファミリーオフィス(香港の歴史は180年の為3-4代が長い方です)を訪問させて頂いたが、差し支えない範囲で以下簡単に御紹介したい。 訪問して判明したファミリー運営に拘る共通の課題は、日本と同じく後継者問題に尽きると言える。但し、その課題に対する取り組み姿勢は、極めて中長期的な戦略視点に溢れている。未来を託すべき次世代に対する教育とトレーニングに膨大な時間と費用を掛けている事、そして大変厳しい規律と慎重さをもって後継者選びをしている事、一方、家業そのものに関しては、事業変革に対して極めて寛容な態度で接しており、そして投資に関しては、殆どプロの運用するファンド会社と同じ目線で投資活動をしている。 教育投資に関しては、幼少の頃から欧米のボーディングスクールに送り込み、多くの方が欧米のトップスクールの院卒、或いは博士の学位を持っている。ダブルDoctorの方もいらした。 「今の香港は豊かだが、自分らが幼少期の1950年代、60年代は、香港ファミリーは貧しかった。それでも親は頑張って子供を海外に送り出したのだ。世界水準で戦え、自立する人材を育ててきた」・・と言うあるファミリーのコメントは印象的である。 そして、子供が社会人になった後のトレーニングも極めて過酷であることもわかった。複数の子供がファミリー企業に就職した場合は担当部門の売上高・最終利益など定量的なデータを5-10年に亘り積み上げ後継候補間で徹底的に競わせるケースもあれば、全くファミリー企業に子供達を就職させずに20年以上ファミリー企業以外で働かせ、ある日突然これはと言う子供だけにファミリー企業入りを命じるケースにも出会った。期待水準に達しない場合は、次々世代まで待ち、その間プロフェッショナル経営者に任せるとも言う。要は、自分たちの資産(事業)を未来に向けて発展させてくれる人材なのかが選考基準なのだ。そして資産の承継方法については、相続税のない香港だけに単純に株式を譲渡するのかと思いきや、大きな間違えであった。かなり精巧なメカニズムをもって、適切かつ厳格に後継者に配分すると共に不公平感を排除するシステムを作り上げている。極論すると親は数百億円規模で社会貢献事業をしているが、子供はファミリー企業の株式を一株も継がないケースもある。

「僕は、ポルシェともフェラーリとも縁がない。このネクタイも5千円のネクタイなんだ」 と言っている若い次世代後継者がなんとも輝いて見えた。 家業に関しては、「事業内容もその中の変化に応じて変わっていくのが常道である」と異口同音に語っている。従って、伝統的な家業を守って数百年と言う事はなく、「この辺は香港的であり、欧米とは異なる」と同行した欧米のファミリーオフィスに詳しい方が感想を述べられていた。 そして肝心のファミリー資産の運営は、未上場・上場株式への投資は勿論、ヘッジファンド、債券等多岐にわたる。そのポートフォリオマネージメントは、これも欧米の一流の投資銀行や投資顧問会社からプロフェッショナルバンカーを雇い入れている。一方、家族みんな投資好きなので、ファミリーメンバーが自分の判断で投資できる枠を決め、その範囲内では個々のメンバーの判断で投資しているケースもある。100歳近い初代がご存命で、彼は最近自身で調査をして中国本土のスタートアップ企業に投資をしたという話も。 そこであるファミリーの方に、「今の運用資産はどのくらいの規模か?」とお聞きしたら、 「今は、US10億ドル位(日本円で約1,100億円)かな。この20年で5倍くらいになった」 あまりにさらりと言われるので、二の句が継げなかった。おそるべし、香港ファミリーオフィス。 サラリーマン経営者で溢れる日本企業は、こんな香港企業のファミリー経営者とどう対峙していくのだろうか、と考えさせられた。

コラム執筆:Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank (NWB)
世界三大金融市場の一つである香港にて、個人投資家に、「世界水準の資産運用商品」と「日本水準のサービス品質」、個人向け資産運用プラットフォームとしての「安心感」を併せて提供している金融機関。マネックスグループ出資先