原油は2020年3月の価格を概ね回復
原油価格が上向いている。2020年6月頃から膠着状態が続いていた原油価格は、11月に入り、新型コロナワクチン開発への期待を背景とした需要増加観測や、リスク資産への資金流入などから上昇した。
依然としてコロナ禍の影響は見通せないものの、懸念された需要の大幅減少が回避されることへの期待が高まり、価格は急落前の2020年3月の価格を概ね回復した。
拡大する原油供給量
一方、供給も拡大傾向にある。特に内戦で大きく原油生産量が縮小していたリビアは、8月の停戦合意の後、11月までに日量100万バレル(以下b/d)以上、原油生産量が拡大したとみられる。
また、世界最大の産油国となった米国の原油生産量の減少は底打ちし、回復の兆しが見える。同国の石油・ガス井の掘削リグの稼働数は急激に回復し、最も減少した8月半ばに比べて既に3割以上増加しており、原油価格次第で追加増産を可能とする体制が整いつつある(※1)。
他方、イランとベネズエラは、米国の制裁がバイデン新政権への移行によって緩和されることへの期待から、原油の供給拡大の可能性が注目されている。
両国に対する米国の制裁が早期に解除される可能性は低いと見られる。しかし、解除されないまでも、これらの国の原油を輸入することに対し、追加制裁を科すといった厳しい態度が緩和される可能性がある。それを見越して、既に中国やインドが購買に動いている模様もあり、イラン、ベネズエラ両国の原油が国際市場に出てくる可能性が高まっている。
OPECプラスは段階的な増産容認で合意
加えて、12月3日、OPECプラスは会合を行い、2021年1月からの段階的な増産容認で合意した。
OPECプラスはサウジアラビアを中心とする石油輸出国機構(OPEC)加盟国と、ロシアなど一部の非OPEC産油国で構成される産油国の集まりで、コロナ禍による需要減少を受けて、2020年5月から協調減産を行っている。
今回の合意は、2020年12月末までの770万b/dの協調減産量を、2021年1月から720万b/dへ50万b/d縮小し、2月以降も市場動向に応じて毎月50万b/dを超えない範囲で段階的に減産量を縮小(200万b/dまで)するというものである。
従来は1月に200万b/dの減産量縮小が予定されていたことから、増産ペースは予定より緩やかなものになるものの、1月からOPECプラスが増産に向かうことが確実となった。
原油価格の鍵を握るOPECプラスの協調減産の行方
しかし、供給でもっとも注目されるのは、OPECプラスによる協調減産自体の行方だ。
会合前、サウジアラビアは新型コロナウイルス感染拡大による需要回復ペースの鈍化や、急激なリビアの増産などによる供給過剰の懸念から、減産量縮小の3ヶ月程度の延期を主張していた。しかし、アラブ首長国連邦(UAE)、ロシア、イラク、ナイジェリアなどが難色を示し、実現しなかった。
会合では前述の段階的に増産を容認する妥協案で合意に至ったが、サウジアラビアのエネルギー相が調整難航からOPECプラス共同閣僚監視委員会(JMMC)の共同議長の辞退を申し出るなど(※2)、決裂と紙一重の合意であったことがうかがえる。
当初予定通り1月から200万b/dの増産容認が決定された場合、原油価格は1割程度下落するとの観測があった。もし決裂していれば、原油価格の下落への影響はさらに大きいものになっただろう。
OPECプラスは世界原油生産量の約4割を担う生産国の集まりで、現行の減産量である770万b/dは、2020年の想定需要の約8%に相当する。この巨大な減産が現在の原油価格を支えている最大の要因だ。
今回の会合では、OPECプラス各国の減産に対する温度差が露呈した。新型コロナワクチン普及による需要増加への期待や、OPECプラス参加国以外の生産量が増加する中、厳しい財政事情を抱える加盟国が、今後も協調減産の枠組みを維持しながら足並みを揃えられるのか。
OPECプラスの協調減産の行方は、今後の原油価格を見る上での最大の注目点と考えて良いだろう。
(※1)米国の原油生産量の6割がシェールオイルで、常に新しい油井を完成させなければ生産量が低下する。掘削リグ稼働数の増加は新しい油井の準備が進むことを意味するが、油井は掘削後に仕上げが必要であり、一般的に採算を取るのに十分な原油価格があれば仕上げが進み、油井が完成する。
(※2)結果的に慰留され、共同議長に留まった。
コラム執筆:村井美恵/丸紅株式会社 丸紅経済研究所