懸念材料を抱えるユーロ圏
足下で米ドル安の傾向が一段と強まってきています。週明けの市場では、ユーロ/米ドルが1.1970ドル台に乗せる動きとなっており、年内にあらためて1.20ドル台を試す可能性も大いにあると見られます。
これがユーロ主体の動きであるとはとても思えず、あくまでこれは米ドル安の傾向が強まった結果と見ていいでしょう。なにしろ、足下のユーロには一段の上値追いに慎重でありたいと思わせる要素が少なくないのです。
まず、何より新型コロナウイルスの感染再拡大がなかなか収まりません。日増しに都市封鎖に踏み切る都市も増えており、これだけ厳しい行動規制がかかっているからには、10-12月期の域内景気がマイナスに沈む公算も大きいと考えられます。
実際、11月のユーロ圏購買担当者景気指数(PMI)は総合指数が前月比で4.9ポイントものマイナスに陥りました。また、欧州連合(EU)の首脳間で7月に合意した「欧州復興基金案」の成立がハンガリーとポーランドの反対によって遅れていることも、ユーロにとっては1つの気掛かり材料と言えます。コロナ禍からの「復興」を実現するための重要な基金が、予定通り2021年の年初から稼働できないとなれば、欧州全体の景気回復も先延ばしになりかねません。
さらに、明日の欧州景気をも大きく左右する英国と欧州連合(EU)の通商交渉が、依然として予断を許さない状況にあることも気掛かりです。言うまでもなく、交渉期限は年内であり、万一交渉がまとまらなければ大混乱を招くこととなるでしょう。仮に、年内に合意がまとまったとしても、年明けからの物流には間違いなく波乱が生じます。通関作業が物理的に手間取るうえ、企業も当分は対応に苦慮し続けることとなるでしょう。
こうした複数の懸念材料があることを考えると、仮にユーロ/米ドルが年内に一旦1.20ドル台に乗せる場面があったとしても、年末から年明けにかけては波乱含みとなる可能性が大いにあると心得ておきたいところです。むろん、足下の米ドル安の流れが一巡し、一転買い戻しの動きが強まる可能性も大いにあると見られます。
世界的な株高による「リスク選好のドル安」
お分かりの通り、このところは米・日をはじめとする世界的な株高によって「リスク選好のドル安」が進む状況となっています。
ついにNYダウ平均が一時的にも3万ドル台に乗せ、ナスダック総合指数やフィラデルフィア半導体株指数も史上最高値を更新、日経平均株価も約29年半ぶりの高値水準となっています。そのような中で、さすがに目先の上昇スピードへの警戒感が相応に強まっていることは否定できません。少々まとまった調整の局面を迎えれば、少なくとも一旦は米ドルが買い戻されやすくなるものと思われます。
イエレン氏の米財務長官起用でどう変わる?
また、目下の市場では次の米財務長官に米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のジャネット・イエレン氏を充てる人事が有力となっていることも米ドル安の一因とされている模様です。
イエレン氏が財務長官に就任すれば、金融政策と財政政策の連携がグンと強まり、米国経済のコロナ禍からの回復がより確実なものになるとの見方があり、それが市場のリスク選好ムードを高めて、米ドル安になびきやすくしているというものです。
加えて、かねてよりハト派で知られるイエレン氏であるだけに、それを単純に米ドル安要因と捉える向きもあるようです。
ただ、イエレン氏がFRB議長を務めていた当時(2014年2月~2018年2月)は、むしろ「ドル高・ユーロ安」の期間の方が長かったことも事実です。そもそも、イエレン氏は常に現実的で頑なな政策対応に務めようとしてきただけで、決してハト派に固執してきたわけではないと思われます。
よって、いたずらに「ハト派でドル安主義」などと決めつけることには慎重でありたいと考えます。