キース・ジャレットが、もうピアノのライブ演奏は出来ないとニューヨークタイムズ紙に告白したとのこと。2018年に脳卒中を2回起こし、1年掛けてかなりリハビリしたものの、片手でしか演奏できず、「両手演奏のピアノ曲を聴くと、非常にもどかしく感じる」とのこと。可哀想です。

キース・ジャレットは、私が大学生の頃までは、必ずしも好きなピアニストではなかったのですが、新卒で就職したソロモンブラザースのニューヨーク本社で働いている時に、アメリカ人の上司からケルンコンサートを教えられて、また20年ほど前に親戚から夜聴くアルバムを贈られて、長年掛けてようやく好きになったジャズピアニストで、中学の頃から幅広くジャズを中心に音楽を聴いてきて、基本いいものはいいと認めてきた私の中では、少し変わり種です。

でも本当にもどかしい、苦しいでしょうね。頭の中で如実に弾けるイメージがあって、いやもっと上手に弾けるイメージがあるのに弾けないのは、本当に辛いことでしょう。昔、ラリー・カールトンが自宅で左肩を銃で撃ち抜かれ、早弾きが出来なくなった時、それでも確か最初のツアーに日本に来て、ゆっくりと弾いたことがありました。その日、私は現場にいたのですが、ゆっくり弾いても観客は温かい声援を送り続け、アンコールになって、俺は弾けないんだよとはにかみながら、ルーム335をポロポロと弾いて、弾いては止まり、弾いては止まり、しかし観客は熱狂し、ラリー・カールトン本人もとても喜んでいるのを間近で見たことがあります。

キース・ジャレットは、ラリー・カールトンとは違うタイプの音楽家で、完璧を目指すタイプだと思うので、そのようなことはしたくないのでしょう。でも、温かい気持ちになれる瞬間がある事を、陰ながら願いたいと思います。