みなさん、こんにちは。東京株式市場は依然として高値圏での推移が続いています。しかし、日々の株価変動幅はかなり狭く、直近では出来高も細ってきている印象です。

米大統領選を前に手控える動きが増している可能性もありますが、これまで指摘してきた通り、どうも手詰まり感が増してきているように感じています。株価の日柄調整はまだ続きそうですが、そろそろ大きく動くエネルギーが溜まってきたのかもしれません。

変化の兆しが出てきた携帯電話業界

さて、今回も「相場のテーマを読み解く」シリーズを続けましょう。株式市場でも前回コラムで取り上げたDXのように注目されるテーマは広がりを見せてきたように感じています。四季報活用法はもう少しお休みをいただきたいと思います。

今回テーマとして取り上げるのは「携帯電話」です。携帯電話そのものはもう言い尽くされた産業であり、「今更、取り上げるテーマではないだろう」と思われる方も多いかと思います。

実際のところ、情報通信関連では5GやSNSといったテクノロジーやプラットフォーム、コミュニケーションツールなどがテーマ性を担うものの、「携帯電話事業そのものは、もはやそこまで注目されてない」というのが一般的な見方でしょう。しかし、ここにきて携帯電話業界に大きな変化の兆しが出てきたと筆者は受け止めているのです。

変化の流れに対する株式市場の反応

変化の兆しとは、既にご存知のように、菅新首相が政策の目玉として携帯電話通信料金の引下げに言及したことです。政府そのものは料金引下げの強制力を持ちませんが、政府の強い要請に民間企業も応える流れが生じてきたように感じます。このような流れに対し、株式市場はまず携帯大手3社に対して「売り」と反応しました。

2018年に当時、官房長官だった菅氏が料金引下げ余地に言及した時も同様の反応となりました。その際は、携帯各社が一応の対応をしたことで一旦収束し、株価も徐々にそれまでの水準を回復させた経緯があります。

今回、再度この話題が出てきたことで「前回の対応は不十分だった」というのが政府認識であるとの観測が広がったうえ、コロナ禍で落ち込んだ可処分所得(すなわち消費の低迷)の回復にも直接寄与できる起爆剤としての期待感も加わり、「一気に劇的な料金引下げがなされる可能性が高い」と株式市場が判断したのだと受け止めています。

ドコモ完全子会社化に見えるNTTの目論見

そして、その後すぐに携帯電話業界ではNTTがNTTドコモの完全子会社化を決定し、これまで歩んできた分割化路線からの転換に舵を切りました。NTTによるこのアプローチには、5G やその先の6Gなど熾烈化する最先端技術を取り込み、グループ全体でそれを活かして生き残っていこうという目論見が伺えます。

また、それら次世代投資においてもドコモ単独では料金引下げがあれば将来は窮屈になりかねず、このような見通しも再編を加速する契機になった可能性があるでしょう。

無線技術の世代革新の継続や、それらに対応する投資負担の拡大を考えれば、今後も同様の再編劇が発生する可能性は否めません。株式市場でもこのような期待が今後高まってくるのではないかと想像しています。

既にほぼ全国民が携帯電話を保有しているなか、携帯電話会社は、そもそも顧客数の拡大が見込み難い状況になっています。少子高齢化の進む「先細りの市場」でパイの奪い合いをしつつあったと言ってよいでしょう。

その一方で、次世代技術への投資負担はかさむ傾向にあり、株式も「成長株」というよりも「安定株」、一部では「配当利回り株」という位置づけをされてきました。このような中での料金引下げ観測ですから、株式市場は業界がピンチに陥るかなりの逆風として受け止めたのも当然と言えるでしょう。

しかし、危機が攻めの経営への転機となることもあります。NTTのドコモ完全子会社化はその現れの1つと言えるかもしれません。言い古された言葉ですが、「ピンチはチャンス」なのです。既存の携帯電話会社に限らず、どのような企業がこの業界のピンチをチャンスに変えることができるのでしょうか。大いなる関心を持って見ていきたいと思います。

公益性の高い企業の本質

なお、この一連のニュースの中で筆者は、駆け出しの頃に尊敬する先輩から聞いた話を思い出しました。その先輩曰く、「インフラなど公益に直接的に関与する企業はあまり高収益を上げ続けることはできない。なぜなら、そうなると必ず儲け過ぎ批判が出てくるからだ」とのこと。

もちろん、それが現実に反映されるには相応の時間軸が必要なのですが、これは公益性の高い企業の本質を捉えたものと言えます。

民間企業が競合している携帯電話通信料金に関しても、「民間競争の域を超えて公益性が問われた」ということなのだと私は受け止めています。株式投資には必ず時間軸を考える必要があり、本質的な収益構造を常に意識しておく必要があることを是非気に留めておいていただければと思います。