2020年も残すところ2ヶ月余りとなりました。2020年は新型コロナウイルスの世界的大流行の影響により、世界経済が思いがけない大きな災厄に見舞われることになりました。コロナ禍のなか、今回は新興国経済の現在位置と今後の展望について、直近の景気サイクル図を見ながら考察してみます。

現状、「停滞」に位置する先進国、新興国

ここで使用する景気サイクル図は、横軸に「景気モメンタム」、縦軸に「景気トレンド」をとり、「①回復→②拡張→③減速→④停滞」といった反時計回りの景気サイクル上に、実質GDP成長率に基づく各国経済の現在位置を示したものになります。

それでは直近、2020年4-6月期現在の世界の景気サイクル図を見ていきましょう(図表1参照)。
 

【図表1】世界の経済サイクル(2020年4-6月期現在)
出所:”TRADING ECONOMICS”のデータに基づきクラウドクレジット作成

上図をご覧いただくと、日本やアメリカ、ドイツといった先進国も、中国とモンゴルを除いた新興国も、④の「停滞」局面に位置していることが見て取れます。

2019年の状況との比較

ここで気になるのは、コロナ禍以前はどのような景気サイクルを描いていたのか、という点です。そこで今度は、上図のちょうど1年前にあたる2019年4-6月期の景気サイクル図を見てみましょう(図表2)。

 

【図表2】世界の経済サイクル(2019年4-6月期)
出所:”TRADING ECONOMICS”のデータに基づきクラウドクレジット作成

日本やアメリカ、ドイツといった先進国は、今般のコロナ禍になる以前から「停滞」局面に位置していたことがわかります。一方、新興国は以前から「停滞」局面にいた国もありますが、「回復」や「拡張」、「減速」といった各局面にばらついていたことがわかります。

このようにコロナ禍前後を比較することで、新型コロナウイルスの感染拡大がいかに世界経済全体に大きな打撃を与えているかを感じ取ることができます。

中長期的にコロナ禍の収束が見えたフェーズでの着目点

その一方で、コロナ禍以前の新興各国の景気サイクルで「グローバル・コンバージェンス」(経済の世界的同調)が進んでいると言われる現代においても、新興各国が独自の景気動向を辿っていたという事実を見逃すことはできません。

目先コロナ禍が短期的に収束すると楽観視できない状況かもしれませんが、中長期的な視野でコロナ禍の収束後に新興国経済がどのような変遷を辿っていくかを考えるのは悪いことではないでしょう。

その際には、コロナ禍以前に見られたように、新興国の多くが独自の景気動向を辿りやすい点にまず着目していただきたいところです。これにより、先進国のみの投資では得難い投資妙味を得られる可能性が生まれます。

為替変動リスクを抑えるためのポイント

ただし、新興国に投資をする際、一般的に避けにくいのが「為替変動リスク」です。為替レートは複合的な要因によって変動するため、先読みをするのは極めて難しいと言わざるを得ません。

ただ、為替変動リスクを極力抑えるために、投資候補とする新興国のファンダメンタル(経済の基礎的条件)に基づいて、以下の3点を把握しておくのは有用と言えます。

(1)経常収支/GDP比率:大幅な赤字は国内の貯蓄不足であるので要注意
(2)純政府債務/GDP比率:国力に比べて国外資本への依存度が相対的に高い国は要注意
(3)消費者物価上昇率(対前年比予想):伸び率が急上昇している通貨は売られやすい

上記の3つの指標は、国際通貨基金(IMF)が年2回公表するWorld Economic Outlookの予想値を使うのが一般的です。ぜひ定点観測する際のご参考にしてみてください。