予想を上回る少子高齢化で年金財政は依然危機的な状況

マクロ経済スライドの導入が決まったのは2004年、小泉純一郎内閣の時代です。5年に1度の年金財政検証で状況を把握しながら、マクロ経済スライドを行わなくても収支のバランスが取れると見込まれるまでは、これを続けることにしたのです。

それから15年が経過した昨年2019年に行われた財政検証の結果から、公的年金の未来予想図を見てみましょう。

小泉内閣時代は“失われた20年”の真っただ中でもあり、賦課方式による年金制度運営が限界に近づいていて、新聞や週刊誌には「年金崩壊」といった見出しが躍りました。しかし、当時行った基礎年金の国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げるなどの大胆な改革が奏功し、現在の年金財政はやや持ち直して“小康状態”に入った感があります。

といっても、日本の少子高齢化は予想を上回るスピードで進んでおり、今なお年金財政が予断を許さない状況であることに変わりはありません。

ポジティブな見通しでは所得代替率50%をキープできる

2019年の財政検証では、2115年までを俯瞰する6つの経済のシナリオを想定し、平均的な賃金の会社員で60歳まで40年間厚生年金に加入していた夫と、専業主婦の妻というモデル世帯で、現役世代の男性の手取り収入に対する年金額の割合を示す「所得代替率」がどうなるのかを示しました。ちなみに、2019年度のモデル世帯の所得代替率は61.7%となっています。

6つのシナリオの中で、経済成長と女性や高齢者の労働参加が進む年金財政にとって望ましい3つのシナリオでは、所得代替率はかろうじて50%超をキープしています。将来の所得代替率は、前回2014年の財政検証時と比べるとやや改善しました。足元で定年後も厚生年金に加入して働く継続雇用や再雇用の高齢者が増えたことなどが貢献しているようです。

とはいえ、成長率がほぼ横ばいという2つのシナリオでは2050年度には所得代替率が50%を割り込みますし、年金財政にとって最悪なシナリオだと2052年度には国民年金の積立金が枯渇し、所得代替率は一気に30%台まで低下してしまいます。

端的に言うなら、マクロ経済スライドによる年金額の調整を当初目標の2023年度で終了できるような水準には到底達していません。2019年の財政検証を見る限り、マクロ経済スライドの終了は最短で2046年度、最長で2058年度まで持ち越される可能性が高いようです。

マクロ経済スライドが存続する間はインフレ対策が必要

この数字を見て、「マクロ経済スライド、それほど効果が出ていないじゃない!だったら、あってもなくても一緒でしょう?」と感じた人もいることでしょう。

しかし、そこまで結論づけるのは早計かもしれません。リーマン・ショック以降の日本経済はデフレが進行していたこともあり、マクロ経済スライドはこれまでわずか3回(2015年・2019年・2020年)しか発動されていないのですから。

年金額の水準は、ポジティブな見通しでも「所得代替率50%」をキープするのがやっとです。そもそも所得代替率が50%ということは、現役世代の収入の半分しか年金をもらえないわけです。老後破綻を回避するには、相応の自助努力が必要になります。

それだけではありません。当面はマクロ経済スライドが継続することを考えると、リタイア後のインフレにも備えておく必要が出てきます。マクロ経済スライドの導入前は物価や賃金の上昇分がしっかり年金額に反映されましたが、今後は、インフレで知らないうちに年金の価値が目減りしていたという事態が起こりかねないからです。老後の資産の一部を、インフレに強いと言われる株式や実物資産などに振り分けておくことも検討に値しそうです。