この記事は2020年7月14日に掲載された当該記事を再構成し、2024年4月11日に更新したものです。
前回「【公的年金】年金制度と年金問題を、ざっくりと整理」でご紹介したように、年金問題はタテの問題(年金財政や世代間バランスの問題)とヨコの問題(世代内のバランスの問題)とに整理できます。今回は、ヨコの問題(世代内のバランスの問題)を説明します。
ヨコ問題の背景=働き方ごとに、段階的に分立して創設
ヨコの問題とは、自営業者とサラリーマン、正社員とパート労働者、専業主婦と働く女性など、同じ世代の中で立場が違う人の間の公平感の問題です。働き方などによって加入できる年金制度が違うため、制度の内容や働き方の区分方法などが問題になります。
働き方によって加入できる年金制度が違うのは、年金制度の発展の歴史に由来します。日本の公的年金制度は、明治時代に導入された軍人恩給から始まり、その後、段階的に整備されてきました。会社員に対する公的年金は、1942年に主に工場や鉱山で働く男性労働者を対象とした労働者年金が創設され、1944年に事務職員や女性も対象とした厚生年金へと改正されました。1961年には、農業者などの自営業者を対象とした「国民年金」が創設されました。
このように、働き方ごとに段階的に分立して制度が創設されたため、制度ごとに給付の内容などに差が生じ、不公平感の原因となりました。
これまでの制度改正=基礎年金の創設、被用者年金の一元化
ヨコ問題には、これまでいくつかの対策が取られてきました。その代表的なものが、基礎年金の創設と被用者年金の一元化です。
基礎年金は、各制度の定額給付部分(いわゆる1階部分)を統合する形で、1986年に創設されました。その大きな背景は、産業構造の変化に伴って、保険料を担う労働者が農業などから工業などへ移ったことです。当時は各制度が個別に運営されていたため、農業者などで構成される(旧)国民年金では年金財政が不安定になりました。そこで、構造変化の影響を社会全体で分かち合うために、(新)国民年金(基礎年金)※が創設されました。
(※国民年金という"制度"に加入すると、基礎年金という"年金"を受け取れる仕組み。)
また、基礎年金に上乗せされる各制度の報酬比例部分(いわゆる2階部分)でも、給付設計の統一化が進みました。公務員の報酬比例部分の年金額は、それまで、退職時の給与に基づいて決まっていました。これが会社員が加入する厚生年金と統一され、働いていた期間の平均給与に基づく形になりました。
さらに2015年には、会社員や公務員など被用者の年金制度が1つに統合(一元化)されました。公的年金に対する国民の信頼を高めるため、同じ報酬であれば、同じ保険料を負担して同じ給付を受け取る形になりました。これにより、複数の制度に分立していた日本の公的年金は、全員共通の国民年金(基礎年金)と、被用者が上乗せで加入・受給する厚生年金の2つに整理されました。
これからの制度改正=パート労働者等への厚生年金の拡大
ヨコ問題の残る課題は、どのような人を厚生年金の対象にするか、です。以前は、週の所定労働時間が30時間未満等のパート労働者や、従業員が5人未満の個人事業所に勤める人は、厚生年金の対象外でした。しかし、このルールが作られた1980年代と比べて、労働者に占めるパート労働者の割合は男女ともに大きく増え、企業や家計でのパート労働者の重要性が高まってきました。そのため、働き方は正社員と変わらないのに処遇が不公平、老後の経済基盤が基礎年金しかなく不十分、このような社会保険の区分が非正規雇用を生み出して格差を拡大している、などの問題が指摘されました。
政府は2000年代の初頭から厚生年金の適用対象の拡大を検討してきましたが、パート労働者が多い業種などから反対が相次ぎ、なかなか進みませんでした。しかし、2012年に成立した社会保障・税一体改革の一環で、正社員が500人を超える企業のパート労働者への拡大が2016年10月から始まりました。加えて2020年5月に成立した法改正で、2022年10月に正社員が100人を超える企業のパート労働者と個人事業所に勤める人へ拡大され、2024年10月には正社員が50人を超える企業のパート労働者へも拡大されることになりました。ただ、この拡大は当初の政府試算よりも後退しているため、次回の制度改正でさらに検討することが、改正法の検討規定に盛り込まれていました。
次回は、冒頭でご紹介した年金のタテの問題(年金財政や世代間バランスの問題)を深掘りします。