このレポートのまとめ
1.連邦公開市場委員会は予想通り政策金利0~0.25%を維持
2.インフレは予想より低く、しかも長期に低迷する
3.信用市場は正常に機能している
4.FRBの金利政策のコミュニケーション
連邦公開市場委員会は予想通り政策金利0~0.25%を維持
2020年6月10日に終了した米連邦公開市場委員会(FOMC)では現行の政策金利0~0.25%が維持されました。また量的緩和政策に関しても変更はありませんでした。
パウエル議長は新型コロナウイルスで米国経済に急ブレーキがかかったことを指摘したほか、5月の失業率13.3%というのは算定方法の事情から実際には3%高いことも認めました。
米連邦公開市場委員会(FRB)は、とりわけ低所得者層、女性、アフリカ系米国人の失業率が高いことを憂慮しています。4月の失業率に比べ5月のそれは若干改善したものの、まだまだ高すぎるため現在の緩和的スタンスに変更を加える考えは現状においては全くないようです。
インフレは予想より低く、しかも長期に低迷する
今回のFOMCで特に強調されたことは米国のインフレはFRBのターゲットである2%より下回ることが予想され、しかも長期に渡って低いと想定していることです。
このことはFRBが今後もガッチリと現行の緩和政策を続けていくことを意味します。
一方で米国株式市場の回復で市場参加者の中には資産バブルを危惧する声も出始めています。しかし、FRBは資産価格の行き過ぎを是正するより社会的弱者にも雇用の機会が最大限に与えられることの方が重要だと考えており、バブルへの備えは二の次だという考え方が鮮明に打ち出されました。
信用市場は正常に機能している
2月下旬から3月中旬にかけての下げ相場の過程で米国の信用市場が機能不全に陥る気配を見せました。その際、FRBは次のような一連のプログラムを矢継ぎ早に発表しました。
1. 無制限の量的緩和政策
2. コマーシャル・ペーパー・ファンディング・ファシリティ(CPFF)
3. マネーマーケットファンド貸付ファシリティ
4. プライマリー・ディーラー融資ファシリティ
5. プライマリー・マーケット・コーポレート・クレジット・ファシリティ(PMCCF)
6. セカンダリー・マーケット・コーポレート・クレジット・ファシリティ(SMCCF)
7. ターム・アセット・バックト・セキュリティーズ・ローン・ファシリティ(TALF)
8. 賃金保護プログラム流動性ファシリティ(PPPLF)
9. 地方商店街拡大貸付ファシリティ(MSELF)
10. 地方商店街新規貸付ファシリティ(MSNLF)
11. ミュニシパル・リクイディティー・ファシリティ(MLF)
これらのプログラムは「経済の必要なところへおカネが回るようにする」ための措置です。その効果あって市場機能は改善し、金詰り的な状況はほぼ解消されたと言えます。
量的緩和政策に関しては一時の猛烈なペースよりはアクセルを踏み込む力を少し緩めたものの、引き続き現行のペースを維持する考えです。
なおFRBが提供している上記の各プログラムはいずれも「貸付パワー」であり「支出パワー」、すなわち財政散布によりおカネをばらまくことは出来ません。
困っている人に対する救済は、借金返済の猶予などの貸付にまつわる便宜を図るだけでは不十分で、時には国民のポケットに直接おカネをねじ込むようなやり方が必要です。そのためには「支出パワー」が欠かせません。しかしそれを実施するには議会の立法が必要です。
パウエル議長は今後も議会が積極的に追加景気刺激策に取り組むことを要請しました。
FRBの金利政策のコミュニケーション
今回のFOMC記者会見では長期でのFRBの金利政策のイメージをどう市場参加者に伝達するか?というフォーワード・ガイダンスの在り方、ひいてはイールドカーブ・コントロールに関してもFOMCメンバーが協議したと説明されました。
パウエル議長は「現在のFRBの一連の政策は適切であり、全く変更する必要は無い」ことを強調しました。
イールドカーブ・コントロールに関しては今後もFOMCメンバー間で引き続き協議していくことが約束されました。
リーマンショック以降、過去最長の景気拡大局面でもインフレ率はほとんど上昇しなかったことを踏まえて、ちょっとやそっとではインフレは起こらないとFRBが考えている事が強調されました。
パウエル議長が特に心配しているのは、失業が長く続くと労働者のスキルが失われる事です。それは労働力率の低下を招き、慢性的な過小雇用の状況を作り上げてしまいます。それを防ぐためにも今はアグレッシブな緩和政策を維持すべきだというのがFOMCメンバーの考えなのです。