世界同時不況がアフリカ経済への下押し圧力を加速
全世界に広がる新型コロナウイルス感染拡大による景気の悪化は成長市場として期待が高いアフリカでも例外ではない。
2月末にナイジェリアで初めて感染者が確認されて以降、サブサハラ各国でも感染の拡大が確認された。そして、3月に入り、感染拡大防止のための経済活動の停止(ロックダウン)が実施され内需の低迷が顕著となっている。そのほかにも主要国の景気悪化による外需の減少、サブサハラ諸国を含む新興国からの資金流出、原油をはじめとした資源価格の下落などの要因が重なり、サブサハラ諸国でも景気下押し圧力が強まっている状況にある。
IMFが4月に発表したサブサハラアフリカの2020年の成長率は前年比-1.6% と、2019年の+3.1%成長からマイナス成長に一転し、史上最低の成長率を見込んでいる。2021年は+4.0%の成長へ回帰する予測だが、これは2020年上半期に感染拡大がピークに達し、下半期以降回復に向かうシナリオの下での予測であり、非常に不確実性が高い。
財政余力の乏しい国が多いサブサハラ諸国においては、他地域以上に財政出動余地が限られるのが現状だ。そのため、支援なしでは景気悪化を抑制できない可能性が高い。
実際に、世界的な危機に対してIMF(国際通貨基金)や世界銀行などの国際機関は、アフリカを含む途上国に対して債務返済の猶予や資金支援などの施策を発表したものの、IMF自身も金額の不足に言及しており、先進国による支援不足が景気悪化要因として懸念される。
送金の減少、自由貿易圏協定導入の延期など、様々な経路を通じた景気悪化の可能性
世界的な景気悪化は、他にも様々な経路を通じてサブサハラ諸国の景気悪化を加速させている。
出稼ぎ労働者からの送金が1つの例だ。世界銀行の分析では、2020年の出稼ぎ労働者からの本国への送金について、サブサハラアフリカでは前年比-23%の減少になると見込んでいる。既に南アフリカやアンゴラなどで為替の下落として表れているとおり、新興国からの資金流出が継続する中、さらなる資金流入の減少が懸念される。
また、2020年7月に導入予定であったAfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)協定は、5月のアフリカ連合会議が延期されたため、来年以降に導入が見送られる見通しとなった。同協定の実現可能性については様々な意見があるものの、アフリカ経済活性化の起爆剤として期待されていただけに影響が心配される。このように、新型コロナウイルスの感染拡大は様々なパスを通じてサブサハラ諸国の経済に影響を与えつつある。
サブサハラでも新型コロナウイルス対策に変化が見られる。足元では、移動規制を行っていたナイジェリアや南アフリカなど、各国で緩和に向かう動きがある。ただし、必ずしも感染拡大が抑制されたわけではなく、経済的疲弊に耐え切れず再開という側面もあり、新型コロナウイルスがアフリカ経済に与えるインパクトはまだまだ底が見えない状況と言えよう。
多様なサブサハラ諸国の中には成長が継続する国も存在
上述のとおり、内外からの景気下押し圧力を避けられないサブサハラ諸国であるが、個別に見ると、相対的に堅調な成長が見込まれている国も存在する。4月のIMF見通しによると、サブサハラ諸国の2020年の成長率が軒並み低下する見込みである中、南スーダン、ベナン、ウガンダをはじめ、45カ国中21カ国がプラス成長(+0.1~4.9%)を維持している【図表1】。
各国の潜在成長率や、人口増加率(サブサハラアフリカ平均は+2.6%)を加味すると1人当たりの実質所得は減少する国も多く、景況感の悪化は不可避であるが、経済全体としては拡大が見込まれている国が半数近く存在する。
加えて、2019年から2020年の成長率低下幅をみると【図表2】のとおりとなる。これによると、既に2019年においてマイナス成長に陥っていたジンバブエ、赤道ギニア、アンゴラ、リベリアを除き、プラス成長が続くモザンビーク、ウガンダ、ベナン、中央アフリカ、セネガルなどは景気の悪化幅が「比較的」小さく、言い換えれば景気悪化の中でも「比較的」堅調な国と見てよいだろう。
当然、対外公的債務が対GDP比100%を超えつつあり、対外債務問題を抱えるモザンビークなど各国において個別の要因があるため、単純に成長率見通しのみでその可能性は評価できない。ただし、各国にあまねく景気下押し圧力がかかるものの、成長段階や産業構造の異なる多種多様な状況の国が存在するサブサハラのポテンシャルを忘れてはいけないだろう。
また、英フィナンシャルタイムズ社の調査によると、新型コロナウイルスの影響により世界の多くの国で足元の死亡者数が過去の平均を上回って推移する中、南アフリカでは過去の平均を下回って推移している。
南アフリカ警察省は、ロックダウンに伴う外出禁止、警察・軍によるパトロール強化により、犯罪件数が約5~9割減っていると発表しており、その影響によるものとみられる。このように、予想外の視点で期待を裏切るポテンシャルを持つのもサブサハラアフリカの可能性であり、魅力といえるかもしれない。
超党派で継続する米国のアフリカ政策
最後に、アフリカの重要な支援国である米国のアフリカ政策について確認する。トランプ米大統領自身はアフリカへの関心が薄いとされるが、米国政府としてはアフリカ支援を超党派で継続している。
直近では2018年に立ち上げられた“Prosper Africa initiative”が、2019年6月から正式に発足してアフリカ支援を強化する動きがみられる。同イニシアティブの下では、拡大する中露のアフリカ進出への対抗を念頭に置きつつ、米国企業のアフリカ政策を支援してアフリカ諸国との貿易、投資を倍増させる目標を掲げている。
今年(2020年)11月に米大統領選挙を控える中、民主党のバイデン前副大統領の対アフリカ政策は必ずしも明らかではない。ただし、クリントン政権下で成立した輸出振興策の“AGOA”、オバマ政権下でのインフラ支援政策である“Power Africa Initiative”など、民主党政権下で成立したアフリカ支援政策は現在も継続されている。
新型コロナウイルスが米国の対外政策にどのような影響を与えるかは不透明である。しかしながら、現政権の対応や民主党の従来からの支持基盤であるアフリカ系米国人の存在、加えて過去の民主党政権が実施してきた対アフリカ政策など、政権が変わっても継続してきたアフリカ支援のスタンスがある。このことを踏まえると、米大統領選挙を契機に極端にアフリカへの関心が下がることは想定しづらいといえよう。
コラム執筆:常峰健司/丸紅株式会社 丸紅経済研究所