確定拠出年金(英語名「Defined contribution pension」)は企業型と個人型の2つのタイプがあります。その加入者数は合わせて約900万人と、老後資金を準備する制度として多くの方が利用するようになりつつある、今注目の制度です。確定拠出年金はひとりひとりの年金資産を個別に管理する仕組みになっていることから、転職時にそれまでに積み上げた年金資産を容易に持ち運び、老後への準備を途切れることなく継続できる特性があります。

転職者はコロナの影響で減ったとはいえ年間300万人近いレベルですから、今の時代にあった老後資金づくりの制度といえます。ただ、それは必要な手続きさえ怠らなければ、という前提付きです。必要な手続きを怠ってしまうと、それまでに積み上げた年金資産を持ち運び(ポータブル)できなかったり、追加の手数料がとられます。

iDeCo(イデコ)の加入継続も手続きが必要

今回は個人型確定拠出年金iDeCo(以下iDeCo)加入者が、転職後もiDeCoに加入継続するパターンを取り上げます。iDeCoの加入継続手続きは不要と思っている方が多いのですが、実はそうではありません。

iDeCoの限度額変更に要注意

離職後、特殊なケースを除けば、iDeCoに加入継続ができます。ただ、「被保険者種別」や「掛金の拠出上限」「勤務先情報」などが変わりますから、転職後に手続きが必要です。とくに前職よりも掛金の上限金額が低くなる場合は要注意です。

そして、会社員や公務員の場合は、お勤め先の退職金・年金制度として、「企業型DC」と呼ばれる企業型確定拠出年金や「DB」と呼ばれる確定給付企業年金があるか、その掛金がいくらか、によってiDeCoの上限額が異なりますから、転職先でこのあたりを確認する必要があります。

【図表】iDeCoの積み立て上限額
※1 国民年金基金掛金や付加保険料との合計が月額6.8万円まで、も満たす必要あり
※2 企業型DC掛金額との合計が月額5.5万円まで、も満たす必要あり
※3 企業型DC掛金額との合計が月額2.75万円まで、も満たす必要あり
※4 企業型DCの掛金額、DB等の他制度掛金相当額との合計が月額5.5万円まで、も満たす必要あり
出所:筆者作成

拠出上限を超えた金額で購入してしまった預金や保険商品・投資信託はその事実が確認された時点で解約され、手数料として1,500円程度が差し引かれます。売却の時点で、商品によっては解約手数料がとられますし、投資信託は時価での売却ですから元本割れする可能性も大いにあります。

iDeCoの加入継続時に必要な書類

勤務先の事業主が変わる場合には、被保険者種別や掛け金上限が変わらなくても「加入者登録事業所変更届」の提出が必要です。なぜなら、自分の掛金上限の金額などを証明してくれる事業主が変わるからです。

ただし、関係機関のデータ連携によってこの書類の提出を不要にする準備が進められており、2024年12月からはこの書類の提出が不要になる予定です。

必要であれば住所変更も

それから、転職に伴って転居した場合には、「加入者等氏名・住所変更届」を提出して住所変更をする必要があります。これを忘れてしまうと、税金の還付に必要な「小規模企業共済等掛金払込証明書」などの大切な書類が届かなくなってしまいます。

変更届:書面による手続きが主流

iDeCoはまだネット上の手続きだけで済むことが少なく、コールセンターに電話して書類を取り寄せ、書面による届け出を行うのが一般的です。一方、必要書類の入手はサイトからダウンロードできる金融機関・手続き内容が徐々に広がっていますから、確認してみてください。

コールセンターに連絡する一般的な流れは以下の通りです。

【1】本人確認(住所・生年月日等)がなされます。

【2】転職することについて話すと、iDeCoの加入継続でよいのか、勤務先の退職金・企業年金制度、住所変更の有無などを聞かれます。

【3】その方の状況に合わせた手続きの内容を丁寧に説明してもらえるので、不明な点があれば確認をします。

【4】書類が自宅に届いたら必要事項の記入、添付書類があればそれも添えて書類を提出します。

民間企業に転職する場合には、iDeCoの限度額を把握するために、転職先の退職・企業年金制度として企業型DCやDBがあるのか、掛金がいくらかといった情報は必ず確認されます。転職先に確認してから、コールセンターへ電話してください。

ここまで読んでいただいてお分かりのとおり、iDeCo加入者として継続するケースでも、それなりの手続きが必要です。手続きが遅れると無駄な手数料がかかってしまうケースもありますので、転職が決まったらなるべく早めにコールセンターに電話して、手続きをすることをおすすめします。老後に向けた資産形成の歩みを着実に継続していただきたいと思います。

(本記事は2020年4月28日に公開し、2022年10月1日に内容を更新しました。)