新型コロナウイルス感染拡大を受け、在宅勤務、巣ごもり状態が長期化する見通しの中で、このトレンドを逆手にメリットを享受する会社を紹介したい。以下の銘柄群は、中長期トレンドに乗った出遅れ銘柄と考えている。今回は、新型コロナウイルス治療薬関連銘柄として、ワクチン開発、検査機器関連、遠隔治療関連の企業である。
ワクチン開発
1.ギリアド・サイエンシズ(GILD)
3月19日午前11時48分頃トランプ大統領が「ギリアド・サイエンシズのレムデシビルが、新型コロナウイルス治療薬としてFDAに認可される日が近い」とコメント。この直後同社株は急伸したが、直ぐに利益確定売りから、株価は下降トレンドとなった。その後午後12時15分頃、FDAの委員であるステファン・ハーン氏が、「レムデシビルの商業化に至る予定等は、法律で述べられないが、新型コロナウイルス治療薬候補として、FDAはギリアドと緊密に連携している」とコメント。
同社はFDA(米国食品医薬品局)にレムデシビルをいわゆる希少薬に指定するよう要請した。コロナウイルスに感染しているアメリカ人は20万人に満たないためだ。3月23日に、FDAは希少薬として認定したが、50を超える消費者と患者の擁護団体から同社に批判の書簡が送付された。「何百万人ものアメリカ人が最終的に新型コロナウイルスに感染すると予想されており、COVID-19は稀な病気ではない」とする内容だった。そこでギリアドは、この認可の取り消しをFDAに求め、受理された。希少疾病用医薬品指定を受けなくても、同薬の承認審査までの時間を短縮できると確信している為だとしている。
公衆衛生上の非常事態であることを考えれば、同社は開発コストをぎりぎり回収する程度の価格に設定する「人道的なアプローチ」を取る可能性が高く、今回の世界的流行では、それほど利益になるとは思わないが、再度流行したような場合は、ピーク時で20-30億ドルの売上高が見込めるとの見方も出ている。因みに、ロシュのインフルエンザ治療薬「タミフル」は約10年前、年間売上高がおよそ30億ドル(約3200億円)に達したが、その後は緩やかな右肩下がりとなっている。
その後、同社は新型コロナウイルス感染症への治療効果が期待されている抗ウイルス治験薬レムデシビルを150万回投与分寄付するとした。14万人の患者の治療に使える量だという。ダニエル・オデイ会長兼最高経営責任者(CEO)が4日付の公開書簡で明らかにした。生命を危険にさらす疾患の患者に例外的に未承認薬へのアクセスを認める「コンパッショネート使用(CU)」制度の下での使用や「拡大アクセスプログラム(EAP)」、臨床試験向けに提供し、重症患者の治療に使われる。
米紙ボストン・グローブが立ち上げたヘルスケア・ライフサイエンス系専門メディアのSTAT(スタット)は4月16日、米ギリアド・サイエンシズが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の中等度と重度の患者を対象に実施しているレムデシビルの臨床試験に参加している施設からの情報として、臨床試験でレムデシビルを投与された患者のほとんどで症状が回復し、1週間以内に退院したと報じた。
ギリアドは、2020年5月にも、2つの臨床試験に組み入れられた計1000人の患者について、何らかの形でデータを公表する予定と説明しており、こうしたデータなどを踏まえて、承認申請の可否を判断するものとみられる。
2.リジェネロン・ファーマシューティカルズ(REGN)
リジェネロンは2019年、「モノクローナル抗体」を用いて静注薬剤を開発した。この薬剤はエボラ出血熱患者の生存率を著しく上昇させることが示されている。
同社研究担当副責任者であるクリストス・キラトソウス氏は、AFPの取材でこの薬剤を開発するための手順を次のように説明した。まず人間に似た免疫系を持つよう遺伝子操作したマウスを作製し、そのマウスを生きたウイルスや弱毒化したウイルスに暴露させてヒト抗体をつくる。次にマウスが産生した抗体を単離し、最も効力が高いものを選別、それを実験室内で培養・精製する。それが人に静脈内投与される。
また現在のところ、同社が手掛ける抗炎症薬が、肺の炎症を抑えるために処方されている。リジェネロン・ファーマシューティカルズ(REGN)とフランスのサノフィ(SNY)は、関節リウマチ治療薬「ケブザラ」で新型コロナウイルス感染症を治療できるか調べるため、ヒト臨床試験に入った。もし肺の炎症を抑えることができれば、患者にとって人工呼吸器は不要になり、熱も下げられる。
サイトカインと呼ばれる生理活性物質の中でも“インターロイキン6”が、多くの炎症を引き起こしている。関節リウマチ治療薬「ケブザラ」は、この“インターロイキン6”の働きを阻害する作用を持つ。中国で感染が流行した際、スイスのロシュ・ホールディングが、関節リウマチ治療薬「アクテムラ」を患者に投与した。この治療薬も“インターロイキン6”の働きを阻害する作用を持つもので、21人に投与したところ、熱が下がり、全員退院できた。ロッシュは現在イタリアで試しているが、結果は良好とのことだ。
新型コロナウイルス検査機器関連
アボット・ラボラトリーズ(ABT)
同社は3月27日、新型コロナウイルス感染の陽性確認を最短5分間で判断できる検査機器を公表した。アボット・ダイアグノスティクスの研究開発部門のジョン・フレルス副社長は、同社が4月1日から1日5万回の検査を実施する計画だとしている。同副社長によると、陰性を完全に確認するには最長で13分かかる。発表資料によると、同社は米食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可を得ている。
また、4月15日には、新型コロナウイルス感染の抗体を調べる血液検査を投入し、検査キットの生産を6月までに月間2000万個に拡大する計画を発表した。同社の発表によると、患者の血液を調べる抗体検査は、アボットが米国内の研究所や病院に提供している「Architect i1000SR」などの免疫分析装置を使用して行う。ウイルスに感染しているかどうかを調べる診断検査とは異なり、「過去に感染したことがあるか」どうかを確認するものだ。
4月16日に発表した第1四半期(1-3月四半期)の売上高、調整済みEPSはともに予想を上回った。新型コロナにウイルスよる不透明を背景に、20年度通期ベースのガイダンスは取り下げたが、株価は上昇している。
遠隔医療関連
1.テラドック(TDOC)
遠隔医療は、米国では規制が厳格で、医療費支払い支援策が不十分な分野であった。それゆえに普及が遅れていた。全ての医療費請求額の中で、遠隔医療の占める割合は、2019年でわずか0.2%しかなかった(独立NPGのフェアー・ヘルス調べ)。
遠隔医療は、州ごとに規定されており、利用患者の州で、その医師が医師登録されており、遠隔診断を受ける前に、医師と個人的に面談していること等が義務付けされていたが、今回の新型コロナウイルス感染拡大を受け、多くの州がこの規制を緩和された。また、低所得者向けの医療保険制度であるメディケイドでも、2013年では7州のみだったが、現在では、最低でも29州で遠隔医療の医療費負担が免除されている。
調査会社IBISワールドによれば、米国の遠隔医療市場は、ソフトウェア、医療機器、ハードウェアを含め、2015年から20年まで年率平均28%で成長し、売上高規模は26億ドルに達したと言う。テラドックは、遠隔医療サービスも含めると、有効市場は300億ドルになると見ている。
テラドック(TDOC)全米最大のオンライン診療サービス企業である。認定医や医療専門家に毎日24時間アクセスできる。バーチャルケアと呼ばれるオンライン診察をスマホ等で受けることができるサービス。新型コロナ感染が心配な人は気軽に利用できる。待ち時間が短く、通院時間も省ける。
4月14日引け後に暫定決算を発表。第1四半期(1月から3月まで)の売上高ガイダンスは前年同期比40%増の1.8-1.81億ドル。予想では前年同期は1.29億ドルだった。調整済みEBITDAガイダンスは1000万-1100万ドル。前年同期は120万ドルだった。合計訪問数は180万件を超えた。前年同期比約70%増である。
同社は昨年5.53億ドルの売上高、3200万ドルの営業キャッシュフローを計上しているが、向こう数年間は、本業への投資が集中する為、赤字脱却できない見通しだ。また、失業者が増加すると、オンライン診療も減少する可能性がある。
2.アイリズム・テクノロジーズ(IRTC)
アイリズム・テクノロジーズは米国の医療機器メーカー。同社開発の「ZIO」パッチは14日間装着が可能で、心臓の不整脈をクラウド・ベースの分析で臨床的に診断する。現在全米の医療態勢が、新型コロナ感染患者向けに傾倒しているが、感染拡大がピークアウトすれば、徐々に本来の医療サービスに復帰しよう。
この機器が保険のカバーが利かない点が障壁であったが、連邦政府が7月にこれに関して決定する。キャッシュフローベースで、2021年には損益トントンになるとの見方が強い。2016年10月にIPO上場し、現下の株価は史上最高値圏である。
3.リヴォンゴ・ヘルス(LVGO)
同社は、糖尿病などの慢性疾患をデータ管理・分析したり、デジタルヘルスプラットフォームの開発・提供に従事している。サービス対象は、高血圧や体重管理等にも及び、健康的な生活スタイルの維持を目指す。
同社は4月7日、第1四半期の売上高ガイダンス・レンジを6000万ドル-6200万ドルから、6550万ドル-6650万ドルに引き上げた。企業健康保険のような新規顧客が620件増加した。これは史上最高数である。個人の会員数も22万人になった。これは短期間契約ではなく、複数年にまたがるものだ。2020年予想売上高ベースの株価売上高倍率(PSR)は12倍と割安。ただし、失業者が増加すると、オンライン診療も減少する可能性がある。
4.マシモ(MASI)
同社は、呼吸、心拍監視機器の開発、製造、売買に従事する。病院、救急医療サービス・プロバイダー、医師、獣医師、介護施設や消費者に同社製品を販売する。最近は、パルス酸素濃度計を開発した。新型コロナウイルスは、呼吸器にダメージを与える為、感染者拡大は、同社事業にとって恩恵となった。
入院患者は、帰宅後も酸素濃度を計測する必要がある。遠隔監視の売上比率は現在5%だが、これが主要事業に成長する可能性がある。現下の株価205ドルでは、予想EPSベースのPERが52倍と、5年平均の34倍を上回っているが、長期的勝組企業である。