「直系尊属からの教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」特例は、平成31年(2019年)に大きく改正され、要件が厳しくなりました。今回は、注意すべき改正点と、この制度をどう活用するかを考えてみましょう。

改正前は、30歳時点で教育資金の残額があれば贈与税の対象となりますが、30歳になるまでに教育費に充てて使い切れば、非課税という制度でした。

贈与した祖父母等が亡くなった時点で、もらった孫等が使い切っていなかったとしても、改正前までは、課税の対象とはなりませんでした。そのため、富裕層の間では相続税の節税の直前対策として、利用されていた面があります。

また、富裕層の父母・祖父母のもとに生まれた子や孫に対しては、特例を使って教育費がつぎ込まれても税金はかからない上に、高い教育を受けられるため、生涯年収も高くなるということで、所得格差が固定化してしまう側面が問題となっていました。そこで以下の見直しがなされました。

教育資金を使い切る前に贈与者が死亡した時

ただし、祖父母等の死亡時に、下記などの場合は、相続財産に合算しません。

1.贈与を受けた孫等が23歳未満

2.学校等に在学中

3.教育訓練給付金の教育訓練の受講中、

逆に言えば上記の要件を満たさなくても、贈与者である祖父母等が、贈与してから3年以上長生きすれば、相続財産に合算される心配はありません。

贈与を受ける子・孫の所得制限

贈与される年の前年の孫等の所得が1,000万円を超えていると、この特例の適用を受けられません。30歳未満で所得が1,000万円 (給与収入1,195万円) 超という人が、はたして、どれぐらいいるか…。

23歳以上の教育資金の使い道制限

教育資金の使い道は、学校等に直接支払う入学金や授業料はもちろんですが、学習塾や習い事・スポーツ教室・文化芸術に関する活動費用、その物品の購入費、通学定期や留学渡航費など、学校等に直接支払うもの以外も非課税の対象となります。なお、学校等へ直接支払うもの以外の習い事等は1,500万円のうち500万円が上限です。

非課税の対象となる習い事として、たとえば絵画教室、音楽教室、ボートの免許取得や、指導員の指導を受ける場合のスポーツジム、自動車学校の費用なども対象となっています。
 
ただし、受贈者である孫等が23歳以上の場合の非課税となる教育費の使い道は、下記の3つに限定されました。

1.大学などの入学金や授業料

2.通学定期や留学渡航費用

3.教育訓練給付金の対象となる教育訓練の受講料

23歳以上でスポーツジムに通ったり、ボートの免許を取ったりということは、教育というより、趣味としての側面が強いと考えられるからでしょう。

最大40歳まで活用できる

原則として、贈与された孫等が30歳になった時に、使い切れなかった部分について、その時点で贈与税が課税されます。

ただし、30歳の時点で次の1か2であれば贈与税が課税されないこととされました。

1.学校等に在学中

2.教育訓練給付金の対象となる教育訓練の受講中

そして、これらが終了する日、または、40歳になる日のどちらか早い日まで贈与税が課税されないこととなります。

直系尊属からの教育資金の一括贈与のデメリット

直系尊属からの教育資金の一括贈与の非課税特例は、もらった方にとってうれしいはずなのですが、実際は、面倒だという感想をよく耳にします。キャッシュカードを発行してくれるところもあれば、窓口でしか払い出しませんというところもあり、金融機関によりまちまちです。

原則として、領収書を保管して、一定の期限までに金融機関に提出しなくてはなりません。ただし、最近は、専用スマホアプリを使って報告することができる金融機関も現れています。また、1回の支払いについて1万円以下かつ年間合計24万円以下であれば、支払年月日や支払先、支払金額等を記載した明細書を提出すればよいこととなっており、少しずつ使い勝手もよくなっています。

とはいえ、まだまだ複雑な制度です。たとえば、12月に払い出した教育資金を、年をまたいで翌年に教育費に使った場合は、教育資金支出額として記録されないなど注意すべき点もたくさんあるのです。

その都度贈与と一括贈与

そもそも、教育資金については、必要な都度、直接充てるために扶養義務者から贈与された場合は、金額に上限はありません。

例えば、孫が海外留学するというときに、渡航費や、入学金、授業料、生活費など年間500万円かかったとしても、また、医学部に入学し年間1,000万円かかったとしても、必要な都度、直接それらの費用に充てるための贈与であれば、祖父母が全額出しても贈与税の対象とはならないのです。

贈与者側である祖父母の「教育費を出してあげる」という判断能力がある場合はその都度贈与で全く問題ないのです。これが通用しなくなるのが、認知症などで判断能力が減退してしまった場合です。

直系尊属からの教育資金の一括贈与の非課税特例は、特例適用当時に「教育資金を贈与する」という意思が明確で、一連の手続きを終えてしまえば、そのあとの贈与者の判断能力の減退は関係ありません。この面においては、この特例は高齢の祖父母から贈与を受けたいときの有力な選択肢となります。

この制度を活用する場合は、メリット・デメリット、子ども自身の進路希望、教育資金の計画など、家族で話し合うことが大切でしょう。