厚生労働省の「平成30年賃金構造基本統計調査」(※)によれば、高学歴の人ほど生涯年収が高いという調査結果が公表されています。
子の幸せを願う親として、子には「質の良い充分な教育を」と望むのは当然のことでしょう。
ところが、給与などから天引きされる社会保険料は毎年のように上がり、昨年からは消費税もアップしています。手取りが少なくなるうえ、支出額が大きくなっていく中で、子育て世帯にとっては、教育費の工面には頭の痛いところです。
このような時、祖父母などの援助があれば、家計に余裕も生まれ、子育ての上でも心の余裕につながると考えられます。
国にとっても、教育費に使える国の財源が限られていることから、親族間で教育費を援助しあってくれるのは、願ったりかなったりですので税制上の有利な特例を用意しています。今回は国の制度を活用するうえでの基本的な考え方をお伝えしましょう。
暦年贈与と教育費の関係
本来、金銭などの資産をもらったとき、贈与税が課されます。ただし、年110万円までは贈与を受けても、税金がかかりません。年110万円を超えると、超えた部分の金額が大きくなればなるほど税率が高くなる超過累進税率で贈与税額を計算し、贈与を受けた人が翌年の3月15日までに申告納税します。これを暦年贈与といいます。
ところで、直系血族や兄弟姉妹、同居親族などは、生活費などの面で、お互い扶養する義務のある間柄(扶養義務者相互間といいます)とされています。つまり、父母・祖父母と子・孫などの直系血族間や、兄弟姉妹、同居の叔父・叔母・甥・姪などの親族間については、生活で困っていたら扶け合わなければならないのです。
法律で扶け合いを義務付けている限りは、生活費や教育費、治療費などを出してあげても、贈与税の対象にはなりません。贈与税の対象ではありませんから、生活費や教育費、治療費などを出してあげても年110万円の枠という考え方はもともと存在しません。
ところが、贈与の仕方によっては贈与税の課税の対象となってしまうのです。
数年分を一括で贈与すると贈与税の課税の対象となる?
生活費や教育費が贈与税の課税の対象とならないのは、「必要な都度」「直接生活費や教育費に充てるため」に贈与されたときです。
つまり、数年間分の生活費や教育費をドーンと贈与された場合で、使い切らずに預貯金となっていたり、株式投資、家の購入費用などに充てられていたりするときは、贈与税の課税の対象とされます。
子育て中の夫婦にとって、必要な都度、祖父母から教育費を出してもらえるのは、とてもありがたいでしょう。でも、今回は出してもらえても、次は期待できないかもしれません。その都度、その都度の祖父母の好意に頼るということでは、長期的な教育費の資金計画を立てにくいと言えます。
このような場合に使えるのが、教育資金をまとめて贈与されたとしても、贈与税はかからない「直系尊属からの教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」です。
「直系尊属からの教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」とは…
「直系尊属からの教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」は、令和3年(2021年)3月31日までの贈与に対して受けられる特例です。
これは30歳未満の子や孫等に対して、父母・祖父母が教育資金を一括して贈与しても、30歳までに教育費に使い切れば贈与税が非課税になるという特例です。受贈者である孫等が受け取れる金額の上限は1,500万円です。受け取る孫等にとっては複数の祖父母から受け取っても1,500万円が上限ですが、贈与する側の祖父母等は何人の孫に贈与しても上限額はありません。
また、「一括して」と言っても、一回で全額贈与しなければならないわけではなく、複数回で贈与しても構いません。これは、「その都度贈与」でなくてもいいという意味なのです。
特例を使った場合のお金の流れ
国としては、「一括して贈与しても非課税」とするからには、教育費に使われていることが確認できる制度にしなければなりません。なぜならば、特例を使って非課税の適用を受けておいて、実は株式投資や家の購入費に充てられていては、法の趣旨に合わないからです。
ですから、「直系尊属からの教育資金の一括贈与の非課税」の特例を受けるには、全てのお金の出し入れが金融機関を通じて行われます。
贈与者である祖父母等は信託銀行等の金融機関に金銭等を預け、受贈者である孫等は金融機関に対して、教育費に使ったという領収書を提出してお金を払い出すという仕組みです(先に金融機関から払い出して、後で領収書を提出する方法もあります)。
国は、孫等が教育費に使っているかどうかの収支の見張り番を、金融機関にやってもらっているわけです。
次回は、平成31年(2019年)に大きく改正された「直系尊属からの教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」の内容と、注意点について取り上げます。