世界のCO2排出量の現状

国際エネルギー機関(IEA)が11月に公表した「世界エネルギー見通し2019(World Energy Outlook)」によると、世界のCO2排出量は2013年から2016年まで横ばい傾向が見られたものの、世界的な経済成長やエネルギー効率向上の鈍化から2017年、2018年と2年連続で増加しました。

2018年のCO2排出量は、331億4300万トン(前年比+1.7%)と過去最高を更新し(図表1参照)、パリ協定の目標達成に向けた排出量削減は一向に進んでいないことが示されました。

【図表1】
出所:IEA(2019年)

世界のCO2排出量を国・地域別でみると、全体の3割を占める最大排出国の中国(前年比+2.6%)、米国(同+3.0%)、インド(同+5.0%)で増加しました。これらの3大排出国の増加分だけで、世界の増加分の8割を占めます。一方、欧州(同▲1.9%)、日本(同▲1.7%)では減少しました(図表2参照)。

また、セクター別でみると、世界のCO2増加分の3分の2を発電部門が占めており、特にアジアにおける石炭などの化石燃料の需要増が寄与しました(図表3参照)。

【図表2】
出所:IEA(2019年)
【図表3】
出所:IEA(2019年)

COP25の成果と今後の注目ポイント

こうした状況下、12月上旬の2週間、スペイン・マドリードで国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)が開催されました。今回の主な争点は、以下の2点です。

(1)排出削減国別目標(NDC)の引き上げ

現時点で各国が掲げている温室効果ガス削減目標(NDC)の積み上げでは、全て達成されたとしても気温上昇は3℃近くになり、パリ協定で掲げる2℃目標の達成には不十分であると指摘されています。

目標の引き上げに関する議論は、2018年11月に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表した「1.5℃特別報告書」を契機として、欧州諸国を中心に盛り上がりを見せつつあります。今年9月の国連気候行動サミットでは、約70の国・地域が「2050年までに排出量を実質ゼロにする」という野心的な目標を表明しました。

一方で、世界の排出量の8割近くを占めるG20諸国だけで見れば、わずか7ヶ国が同目標を表明しただけで、中国や米国、インド、ロシア、日本、ブラジル、豪州などの主要排出国からの表明は見られませんでした。

COP25でも、欧州を筆頭に目標引き上げを強く促すべきとの声が上がりましたが、排出増加が続く中国やインドなどが反対し、より柔軟な表現で文書化・採択されました。今後は、パリ協定のプレッジ&レビュー(※1)のルールに基づき、各国は2015年に提出済みの国別削減目標(NDC)の見直しを2020年末までに国連に再提出することが求められており、引き続き欧州を中心に目標引き上げを求める声が高まることが予想されます。

(2)市場メカニズムのルール策定

昨年のCOP24で議論が難航し、COP25で合意が期待されたのが、第6条の市場原理に基づく気候変動対策メカニズム(市場メカニズム)のルール作りです(図表4参照)。パリ協定における市場メカニズムとは、他国への技術支援に伴って削減した排出量をクレジット(排出権)化して、自国の削減量に計上する仕組みです。

【図表4】
出所:丸紅経済研究所作成

COP25では、主にブラジルやインドなどが、京都議定書時代の旧制度で得たクレジットの新制度への繰り越しや排出削減の二重計上(ダブルカウント)の承認を求めたものの、大多数の国が世界全体での削減強化に繋がらないとして反対しました。結果として、各国の意見対立に妥協点を見出せず、合意は再び来年のCOP26に持ち越しとなりました。

パリ協定は、先進国だけでなく途上国も含むほぼ全ての国が気候変動対策に取り組む初の枠組みで、今回のCOP25の結果からも各国の利害調整が難航している様子が伺えます。

来年からパリ協定の実施期間が始まる中、引き続き欧州を中心とした野心的な動きは企業活動を行う上での機会にもリスクにもなりうることから、ブラジルやインドなどの抵抗する動きも含めて注視していく必要があるでしょう。

 

(※1)プレッジ&レビュー:パリ協定では、先進国だけでなく途上国も含む全ての国が、自国の事情に合わせて温室効果ガス排出削減目標(NDC)を策定し、5年ごとに見直し・再提出する。その際に、各国は目標の達成に向けた進捗状況に関する情報を提供し、専門家によるレビューを受ける。また、長期目標の達成に向けた世界全体の進捗を評価するために、2023年から5年ごとに実施状況を定期的に確認するルールもある(グローバル・ストックテイク)

 

コラム執筆:浦野 愛理/丸紅株式会社 丸紅経済研究所